最新記事

世界が尊敬する日本人100人

中国人が蒼井そらを愛しているのはセクシー女優だから──だけではない【世界が尊敬する日本人】

2019年4月27日(土)15時25分
安田峰俊(ルポライター)

ILLUSTRATION BY KYOJI ISHIKAWA FOR NEWSWEEK JAPAN

<日本のアダルト業界で一世を風靡した後、一般タレントとして中国に進出して早8年。「私は女神様じゃなくて普通の人」と語る蒼井が人気を保ち続けている理由は>

201904300507cover-200.jpg

※4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が尊敬する日本人100人」特集。お笑い芸人からノーベル賞学者まで、誰もが知るスターから知られざる「その道の達人」まで――。文化と言葉の壁を越えて輝く天才・異才・奇才100人を取り上げる特集を、10年ぶりに組みました。渡辺直美、梅原大吾、伊藤比呂美、川島良彰、若宮正子、イチロー、蒼井そら、石上純也、野沢雅子、藤田嗣治......。いま注目すべき100人を選んでいます。

◇ ◇ ◇

「まさか自分が中国語で情報発信しながら海外と仕事をするとは思っていなかった」

蒼井そらは2010年代の中国における最も有名な日本人だ。

2002年に「妹系」のセクシー女優としてデビュー。日本のアダルト業界で一世を風靡し、2011年から中国の芸能界に一般タレントとして進出した。楽曲のリリースや映画・ドラマ出演を何本もこなし、今や名実共に「中国のVIP芸能人」として認められる存在になっている。

中国との接点が生まれたのは2010年4月だ。自身のツイッターのフォロワーに中国人が多いことに気付き、英語や翻訳ソフトで訳した中国語でコミュニケーションを取ったところ、中華圏のメディアで話題に。同年11月、中国国内の大手SNS微博にアカウントを開設すると大ブレイクした。2019年4月現在のフォロワー数は1911万人に上る。

当初はツイッターの書き込みをソフトで翻訳して投稿していたが、「リアルタイムで書いたほうがいいと思って」程なく蒼井自身が中国語を勉強して自分で書き込むようになった。

中国での蒼井の人気が絶頂に達した2012年は、尖閣問題をめぐり日中関係が極度に緊張した時期に当たる。彼女のアカウントに心ない投稿が寄せられる一方で、反日デモの現場では「尖閣諸島は中国のものだが、蒼井そらはみんなのもの」という奇妙なジョークが流行した。

日中双方で、関係悪化を望まない知識人が蒼井を「日中友好の旗手」と持ち上げる動きもあった。

「中国の人たちとは仲良くしたいけれど、政治や歴史問題のことは分からない。でも、発信しないと『負け』な気がして、日常をつぶやいていた」と、蒼井は言う。「私は(日中関係を救う)女神様じゃなくて普通の人。隣にいるお姉さんくらいに思ってくれたらなって」

中国特有の苦労もあった。1週間前に突然決まったイベントが、開始3時間前に中止になる、といった行き当たりばったりもざらだ。現地メディアが流した「蒼井そらの書道作品がオークションで60万元(約1000万円)で落札された」というフェイクニュースでバッシングが起きたりもした。

蒼井はそれでも発信をやめなかった。2018年1月に微博で結婚を公表したが、この中国語の文章も自分で書いた。結果、投稿には中国のファンからの祝福が殺到した。

「ほかの人に書いてもらったら、私の言葉じゃなくなる。もちろん多少の添削はしてもらったが自分で書いた」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中