最新記事

韓国事情

韓国の日本大使館、建て替えが進まず空き地になったまま4年が経った理由

2019年4月17日(水)18時00分
佐々木和義

取り壊されたままになっている日本大使館跡地と慰安婦像 撮影:佐々木和義

<韓国の日本大使館は、建て替え計画が進められ、建物を取り壊したが、着工しないまま4年近くが経過している。その理由とは......>

韓国ソウルの鐘路区は、今年3月、在韓日本大使館に新築ビルの建築許可の取り消しを通知した。日本政府は老朽化した日本大使館を建て替える計画を進め、大使館と領事部は隣接するオフィスビルに移転して建物を取り壊したが、着工しないまま4年近くが経過していた。

韓国では建築法上、建築許可から1年以内に着工しなければならない。着工できない事由があるときは延長を申請できるが、日本大使館は延長申請を行わず、取り消しを受け入れると述べていた。日本政府と外務省は着工しない理由を明らかにしていないが、大使館前に設置されたいわゆる慰安婦像が影響しているとみられている。

在韓日本大使館の建て替え計画の複雑な経緯

在韓日本大使館の建て替えが計画されたのは2012年。日韓関係の深化に伴い業務が増え手狭となり、また建物の老朽化も進んだため、地下3階、地上6階に建て替える計画が作られた。

日本の在外公館はすべての業務を同じ敷地で行うのが一般的だが、韓国では3か所に分散していた。日本大使館本館では、外務省職員と各省庁から派遣された職員が政治や経済に関する業務を行い、在留邦人の諸手続きやビザ発給等は領事部、文化交流や対外広報は公報文化院が担っていた。こうしたこともあり、建て替えが計画されたのだが、これに韓国の文化財庁が反対した。

大使館は景福宮に近く、敷地は文化財保護法の適用範囲内にある。同法の高さ制限を満たさないというのが同庁の主張だった。大使館は高層ビルに囲まれており、景福宮との間には17階建のビルもある。景観への影響はないと日本政府は反論したが、文化財庁は建築を認めなかった。

状況が変わったのは2013年。東京の韓国大使館の新築計画が浮上したのだ。在韓日本大使館の建築を認めず、東京の韓国大使館の新築に取りかかれば、日韓の新たな火種になりかねない。外交部が再検討を促し、文化財庁は取り壊し後に発掘調査を行う条件で承諾した。そして、発掘調査で朝鮮時代と推定される遺物が発見されたものの歴史的な価値は認められず、工事は可能となったのだが、日本政府は工事に着手しなかった。

数々の受難に見舞われてきた在韓日本大使館

そもそも在韓日本大使館がある鐘路区中学洞は、日本政府が望んだ場所ではなかった。日韓基本条約を締結した1965年、日本政府は日韓併合前に日本公使館が置かれていた中区芸場洞を要望したが、朴正煕政権が拒絶して代わりに用意した場所だ。

そして、在韓日本大使館本館は1976年に建てられて以来、数々の受難に見舞われてきた。光復節の8月15日や独立運動記念日の3月1日、また、日韓で様々な問題が持ち上がるたびにデモ隊が集まり、火炎瓶が投げ込まれたこともある。2012年7月には60代のトラック運転手が大使館正門に突進した。

RTX13O2J.jpg

日本産水産物の輸入禁止を訴える人々(2013年) Kim Hong-Ji-REUTERS

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲

ワールド

トランプ氏、米学校選択制を拡大へ 私学奨学金への税

ワールド

ブラジル前大統領らにクーデター計画容疑、連邦警察が

ビジネス

カナダ、63億加ドルの物価高対策発表 25年総選挙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中