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メディアで報じられない「金と欲」に翻弄された東日本大震災被災地の現実

2019年4月3日(水)16時55分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<原発事故に伴う賠償金をもらった者ともらい損なった者、差別に苦しんできたいわき市民、仕事をしないほうが収入が多い就労不能損害補償の対象者......「震災バブル」とそれに伴う問題は、8年たった今も続いている>

『震災バブルの怪物たち』(屋敷康蔵著、鉄人社)の著者は、大手消費者金融会社を経て不動産業界に転身したという人物。2010年代にはローコストを売りにする大手住宅メーカーに転職し、福島県いわき市内の営業所で住宅販売の営業マンとなったそうだ。現在は別会社に転職しているものの、東日本大震災以降、多くの被災者に住宅を販売してきたわけだ。


 2011年3月11日、突如日本を襲った「東日本大震災」そして原発事故。当時、日本中が大パニックに陥る中、被災地では皆が助け合い復興へ向けてお互いが協力し合う姿がメディアでは写し出された。
 この様な事態においても日本の被災地では自分優先の行為に走る事も無く、秩序を守る姿がクローズアップされ全世界も絶賛した。
 しかし被災地では報道される美談ばかりではない。復興に向けて人々が立ち上がる時......そこには復興マネーと言われる『大金』が流れ込み、政府が決めた境界線の内側と外側で、大金を手にした者と手にし損なった者を生み出す事となった。
 これは復興バブルを背景に、メディアでは報じられない"金"と"欲"に翻弄された被災地のもう一つの顔である。(「まえがき」より)

この文章における最大のポイントは、「政府が決めた境界線の内側と外側」という部分だ。まずはそのことについて、改めて説明しておこう。

震災後、福島県は復興に向けての建設ラッシュとなった。その背後にあるのは、国の生活再建支援金や、原発事故に伴う東京電力の賠償金だ。しかし後者が、被災地で大きな問題となったのだ。

つまり、東電の賠償金の対象者は、原発~20キロ圏内、および20キロ超~30キロ圏内に住む人たちだけ。この30キロラインからわずかでも外に出れば、賠償金は一切、支払われないということになるのである。

さらに事態を難しくしているのは、原発事故の賠償金が平均的な4人世帯で約6300万円〜1億円超という莫大な金額であること。それでは、境界線の内側と外側とで「もらった者」と「もらい損なった者」との対立が起きてもまったく不思議ではないわけだ。


 原発事故の境界線に位置するここ「福島県いわき市」では、震災から8年が過ぎ復興が進んで行く過程で、復興マネーの使い方や原発事故の賠償金の格差が被災者の間で軋轢を生み、新たな問題が発生している。
・新興住宅地に並ぶ高級車......
・地価急上昇に伴う住宅事情のバランス崩壊......
・大金を手に入れた者と入れ損なった者との格差と争い......
 被災地における金の問題は、タブー視されてメディアではあまり取りあげられる事はないが、被災地では今避けては通れない大変な問題となっている。
 原発事故後に政府が決定した境界により大金を手に入れた被災者と入れ損なった被災者が共存する事となった福島県のいわき市。ここではかつて日本が経験した事のない被災者格差と差別が生まれる結果となった。(「まえがき」より)

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