最新記事

BOOKS

メディアで報じられない「金と欲」に翻弄された東日本大震災被災地の現実

2019年4月3日(水)16時55分
印南敦史(作家、書評家)

本書において著者は、復興の一端を担う被災地の住宅メーカー社員としての立場から、被災地の問題を伝えている。つまり中立な視点で、実際に見知ったことだけを明らかにしているのである。その結果として浮き彫りになっているのは、震災マネーによって価値観が一変した人たちの姿である。

また住宅メーカー社員であるということだけでなく、客観性の軸となった重要なポイントがもうひとつある。著者が福島県いわき市に暮らしていたことだ。

福島県でも太平洋に面するいわき市と、そこから先の相双(そうそう)地区は「浜通り」と呼ばれる地域。東日本大震災による建物の倒壊、津波と原発事故により、多くの被災者を生み出した。

いわき市は人口34万人の都市で、高度経済成長期まで本州最大の炭鉱である「常磐炭鉱」のある町として栄えた。また、小名浜港などにより漁業で発展した町でもある。

映画『フラガール』の舞台にもなったスパリゾートハワイアンズ(旧常磐ハワイアンセンター)がある観光地としても有名だが、これは東北のなかでは年間の日照時間が最も長いことに由来する。夏は内陸より涼しく冬は暖かいので、「東北のハワイ」と呼ばれてきたのだ。


 のちに、この温暖な気候と、何より南北に通じる=被災地にアクセスしやすい国道6号線が通じていたことが、いわき市の命運を変えていく。
 原発事故によって立ち入り禁止となったエリア(原発から30キロ圏内)から避難してきた住民、いわゆる原発避難者が、一時帰宅(政府の許可が出た日に一時的に帰宅できる制度)の際にアクセスしやすい環境もあり、いわき市に移住。結果、多くの被災者を受け入れる事となったのだ。(14〜15ページより)

いわき市は福島第1原発から40キロの位置にあるが、原発事故後は風評被害に遭うことになる。「いわき市は放射能に汚染されている」などという情報が流れたため、「いわきには入るな!」と指示されたドライバーたちは茨城県の日立市やいわき市勿来町(茨城県と福島県の県境でもあるいわき市最南端の町)で引き返してしまう。その結果、ガソリンや食料などすべてのものの流通が遮断されたのだ。

マスコミやメディアの人間も、いわき市に足を踏み入れることに恐怖し、一時期は日本の地図から消された報道の空白地帯となった。例えば、いわき市の沿岸部で壊滅的な津波被害を受けた薄磯(うすいそ)・豊間(とよま)地区は東日本最大級の津波被災地でもあるというが、その事実はほとんど報道されていない。

そんな状況下にあった著者は、震災直後にいちばん苦しい思いをさせられたのは、取り残されたいわき市民だったのではないかと振り返る。避難指示もなく、物資も断絶された状態で「逃げたい人は勝手にしてください。あくまで自主的に」という、なにからなにまでが中途半端な自主避難区域だったからである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米・イラン、26日に第3回核協議=オマーン外相

ワールド

米との関税合意、離脱表明した国はない=USTR代表

ビジネス

焦点:米食品大手、肥満薬普及で戦略転換 原材料見直

ワールド

アングル:米との貿易協定リセットは困難か、違憲判決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 2
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面を突き破って侵入する力の正体が明らかに
  • 3
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官が掲げる「新しいスパイの戦い方」
  • 4
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 5
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 6
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 7
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 8
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 9
    「高市トレード」に「トランプ関税」......相場が荒…
  • 10
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 5
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 6
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 7
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 8
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 9
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 10
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中