最新記事

企業

ジョブズとクック、まったく異なる仕事の流儀

2019年4月2日(火)19時40分
竹内一正(経営コンサルタント)

ジョブズ(右)とクック、どちらがすごいのか?(写真は10年07月の本社での記者会見) Kimberly White-REUTERS

<「アップルショック」以降のアップルの未来を、『アップル さらなる成長と死角』の著者でアップル勤務経験もある経営コンサルタントの竹内一正氏が解説するシリーズの第2回。ジョブズとクックの経営哲学はこんなに違う!>

◇ ◇ ◇


こんなに違った2人の経営者

スティーブ・ジョブズは感性の経営者であり、完璧主義者だった。デザインにこだわり、未来の姿を予見し、不可能とも思えるゴールに向かって部下の尻を叩き、ひた走った。

それに対してティム・クックは合理性を重んじる経営者だ。物流や在庫管理の「オペレーション」で実績を上げたクックは、スプレッドシートの細部にまで目を配る。矛盾点を洗い出し、万全の手を打つ現実主義者だ

2人は対照的だ。それは地球環境問題への対応にも表れていた。

地球環境問題に正面から立ち向かうクック

アップルは製品にばかり目が行くが、地球環境問題でもその先進的な取り組みに世界の注目が集まっている。それは、クックがCEOになった2011年8月以降の変化だ。

アップルのデータセンターは2014年にはすでに100%再生可能エネルギー対応となり、2018年4月には世界中のアップル直営店からオフィスから全てのアップル施設の電力が100%再生可能エネルギーで賄われるようになった。

本社のあるシリコンバレーの「アップル・パーク」は17MW(メガワット)の屋上太陽光パネルや4MWのバイオガス燃料電池などの9種類のエネルギー源を組み合わせ、100%再生可能エネルギーで電力が供給されている。

サプライヤーも巻き込め

クックはアップル本体だけでなく、サプライヤーに対してもアップル製品の生産工程を100%再生可能エネルギーで賄うよう働きかけ、資金も人も出してこれを進めた。2018年時点で総計23社のサプライヤーがこれに参加している。

アップルは、2020年までに4GW(ギガワット)以上のクリーン電力をサプライヤーと共に生み出す計画で、この値はアップルの製造全体における2017年の「カーボンフットプリント」の30%に相当する。

このカーボンフットプリントとは、原材料の調達から生産、廃棄、リサイクルまで企業活動の全ての取り組みをCO2排出量で示す数値だ。2015年には3840万トンだった数値を、2017年には2750万トンにまで削減した。

ところで、グーグルも再生可能エネルギー100%を推し進めているが、グーグルは製品を作っていないので製造工場はなく、あるのはデータセンターだ。その点がアップルと大きく違う。アップルの取り組みは、自社の施設やデータセンターに加え、サプライヤー、そして製品にまでと実に広範囲に及ぶ。

外注先企業の労働問題まで改善する

クックはオペレーションの効果でムダをなくし、在庫回転率を上げ、財務体質を強化した。サプライヤーの現場に張りつき、細かく目を配り、部品サプライヤーの在庫管理にまで口を出して、納期通りに iPhone を出荷してきた。

またアップルはサプライヤーにあれこれ口を出すだけでは終わらず、サプライヤーの労働問題や、環境保護にまで口を出す企業となっている。

毎年発表する「サプライヤ-責任」という報告書は「労働・人権」などの観点から細かく評価を行っている。

強制労働、勤務時間の改ざんなどの違反を遠慮なく告発し、仕事の斡旋業者から多額の手数料が搾取されたことが判明すれば、サプライヤーに命じて斡旋業者から労働者に手数料を払い戻させた。2017年では約1億9000万円相当が従業員の手に戻った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中