ジョブズとクック、まったく異なる仕事の流儀
ジョブズ(右)とクック、どちらがすごいのか?(写真は10年07月の本社での記者会見) Kimberly White-REUTERS
<「アップルショック」以降のアップルの未来を、『アップル さらなる成長と死角』の著者でアップル勤務経験もある経営コンサルタントの竹内一正氏が解説するシリーズの第2回。ジョブズとクックの経営哲学はこんなに違う!>
こんなに違った2人の経営者
スティーブ・ジョブズは感性の経営者であり、完璧主義者だった。デザインにこだわり、未来の姿を予見し、不可能とも思えるゴールに向かって部下の尻を叩き、ひた走った。
それに対してティム・クックは合理性を重んじる経営者だ。物流や在庫管理の「オペレーション」で実績を上げたクックは、スプレッドシートの細部にまで目を配る。矛盾点を洗い出し、万全の手を打つ現実主義者だ
2人は対照的だ。それは地球環境問題への対応にも表れていた。
地球環境問題に正面から立ち向かうクック
アップルは製品にばかり目が行くが、地球環境問題でもその先進的な取り組みに世界の注目が集まっている。それは、クックがCEOになった2011年8月以降の変化だ。
アップルのデータセンターは2014年にはすでに100%再生可能エネルギー対応となり、2018年4月には世界中のアップル直営店からオフィスから全てのアップル施設の電力が100%再生可能エネルギーで賄われるようになった。
本社のあるシリコンバレーの「アップル・パーク」は17MW(メガワット)の屋上太陽光パネルや4MWのバイオガス燃料電池などの9種類のエネルギー源を組み合わせ、100%再生可能エネルギーで電力が供給されている。
サプライヤーも巻き込め
クックはアップル本体だけでなく、サプライヤーに対してもアップル製品の生産工程を100%再生可能エネルギーで賄うよう働きかけ、資金も人も出してこれを進めた。2018年時点で総計23社のサプライヤーがこれに参加している。
アップルは、2020年までに4GW(ギガワット)以上のクリーン電力をサプライヤーと共に生み出す計画で、この値はアップルの製造全体における2017年の「カーボンフットプリント」の30%に相当する。
このカーボンフットプリントとは、原材料の調達から生産、廃棄、リサイクルまで企業活動の全ての取り組みをCO2排出量で示す数値だ。2015年には3840万トンだった数値を、2017年には2750万トンにまで削減した。
ところで、グーグルも再生可能エネルギー100%を推し進めているが、グーグルは製品を作っていないので製造工場はなく、あるのはデータセンターだ。その点がアップルと大きく違う。アップルの取り組みは、自社の施設やデータセンターに加え、サプライヤー、そして製品にまでと実に広範囲に及ぶ。
外注先企業の労働問題まで改善する
クックはオペレーションの効果でムダをなくし、在庫回転率を上げ、財務体質を強化した。サプライヤーの現場に張りつき、細かく目を配り、部品サプライヤーの在庫管理にまで口を出して、納期通りに iPhone を出荷してきた。
またアップルはサプライヤーにあれこれ口を出すだけでは終わらず、サプライヤーの労働問題や、環境保護にまで口を出す企業となっている。
毎年発表する「サプライヤ-責任」という報告書は「労働・人権」などの観点から細かく評価を行っている。
強制労働、勤務時間の改ざんなどの違反を遠慮なく告発し、仕事の斡旋業者から多額の手数料が搾取されたことが判明すれば、サプライヤーに命じて斡旋業者から労働者に手数料を払い戻させた。2017年では約1億9000万円相当が従業員の手に戻った。