SNSで自滅する自撮り首相トルドー、スキャンダルで進歩主義イメージが...
Living and Dying by Social Media
国民とのセルフィ―(自撮り)に気さくに応じているトルドー首相。ソーシャルメディアを使いこなす政治手法が吉と出るか凶と出るか CLODAGH KILCOYNE-REUTERS
<カナダのトルドー政権が選挙イヤーに失速。多様性・男女同権の旗手だったが、ソーシャルメディア戦略に溺れ、バイラルな砂上の楼閣が揺らいでいる>
2015年11月に就任したカナダのジャスティン・トルドー首相は、多様性と男女のバランスを重視した組閣を行い、新左派政権の誕生を印象付けた。
閣僚を男女同数にした理由を聞かれたトルドーの答えは、「なぜなら2015年だから」。この言葉は瞬く間に世界中に広まった。
そして2019 年の今、トルドー政権は自業自得のスキャンダルの真っただ中にいる。ソーシャルメディアとテレビの生中継で繰り広げられている政治ショーは国政を麻痺させ、トルドーも失脚しかねない。
ソーシャルメディアは「バイロクラシー」、すなわちバイラル(ソーシャルメディアを使った口コミ)な政治支配を可能にする。だが、ソーシャルメディアは本質的に自滅を招く。トルドーはその生きた教材だ。
現在、トルドー政権を揺るがしているのは「SNCラバラン・スキャンダル」。だがカナダの政治史を振り返れば、似たようなことは数多くあった。ケベック州モントリオールを拠点とするSNCラバランは、国内で8500人、国外で数万人の従業員を擁する大手建設会社だ。以前から国内外で疑惑が絶えず、リビア政府に対する贈賄をめぐりカナダで刑事訴追された。
SNCラバランは司法取引を模索したが、検察は応じなかった。これに対しトルドーと側近が、ケベックの雇用(とケベックの票)を守るためとして昨年、ジョディ・ウィルソンレイボールド法相兼司法長官に「不適切な圧力」をかけ、訴追の延期を迫ったとされる。要求に従わなかったウィルソンレイボールドは今年1月に退役軍人問題相に降格され、2月に辞任した。
2月末に議会で不適切な圧力について証言したウィルソンレイボールドは、最後にこう締めくくった。「伝統ある先住民の一族に生まれた1人として、私は真実を述べています」
まさにツイッター向きのセリフだ。カナダ自由党や閣内の同僚の一部が、さまざまなソーシャルメディアで支持を明言した。
ただし、世間の反応はやや薄い。ケベックの地方議員が懸念を表明してはいるが、もっぱら地元の雇用に関することだ。
トルドー政権の自滅型政治が、ようやく本領を発揮している。見せかけの美徳とソーシャルメディアで権力を握った手法そのものが、自滅を招くのだ。
トルドーは、進歩主義のセレブというイメージを操る達人だ。ソーシャルメディアを使いこなせば選挙に勝てることも証明した。