イスラム恐怖症は過激なステージへ NZモスク襲撃で問われる移民社会と国家の品格
ある専門家によれば、昔の移民は一生懸命努力して移住先の社会に適応しようとしたが、今の移民は自分たちの文化を持ち込んで、孤立しながらもそれを守ろうとする傾向が強いという。
私はここで、日本社会は人種差別的な社会、または他者を排除する社会だと言いたいのではない。ただ、我(われ)を知るためには、他者を理解しなければならない。つまり他文化への正しい理解を通して、自文化を再認識する必要があるということを強調したいのだ。
移民というのはどこで生活しようが、しょせん移民だ。そして、その現実をしっかり理解し、人生を送っていくしかない。
今回の事件から、どんな教訓を私たちは得なければならないのか。あの人間の醜い思想を作り上げたものは何なのか、またそれがどういう環境で育ち、広がったのかなどを検証すべきだ。
確かに単独犯による犯行だったが、世界各地に白人至上主義を含む「排他的な過激思想」が広がっているのも事実であり、今回の事件は氷山の一角にすぎない。また、これは対岸の火事ではない。私たちはみんな当事者である。
危険な移民排斥傾向をもつ極右の政治勢力に対して、世界は拒絶の意思表示をすることが必要だ。欧米社会にはこうした思想を追い出す責任があるし、そのような過激思想が栄える環境を作ってはならない。
今はある意味で、単なる人や技術の大移動だけでなく、暴力の大移動が可能となった時代でもある。ニュージーランドが経験した暴力は、別の場所で育ち、移民排斥のイデオロギーを身に付けた人間が持ち込んだものだ。そのため、世界を確実に寛容で安全な場所にするには、この問題を国ごとに考えるわけにはいかない。
世界的な取り組みを呼びかけることも重要な課題となる。
【執筆者】アルモーメン・アブドーラ
エジプト・カイロ生まれ。東海大学・国際教育センター教授。日本研究家。2001年、学習院大学文学部日本語日本文学科卒業。同大学大学院人文科学研究科で、日本語とアラビア語の対照言語学を研究、日本語日本文学博士号を取得。02~03年に「NHK アラビア語ラジオ講座」にアシスタント講師として、03~08年に「NHKテレビでアラビア語」に講師としてレギュラー出演していた。現在はNHK・BS放送アルジャジーラニュースの放送通訳のほか、天皇・皇后両陛下やアラブ諸国首脳、パレスチナ自治政府アッバス議長などの通訳を務める。元サウジアラビア王国大使館文化部スーパーバイザー。近著に「地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人」 (小学館)、「日本語とアラビア語の慣用的表現の対照研究: 比喩的思考と意味理解を中心に」(国書刊行会」などがある。