最新記事

極右

ネオナチと仮想通貨の意外な関係

Neo-Nazis Bet Big on Bitcoin (And Lost)

2019年3月22日(金)18時19分
デービッド・ジェラルド

2017年のビットコイン・バブルの絶頂期には、ビットコインを購入したネオナチが金持ちになることを多くの人が心配していた。

しかし極右勢力が蓄えた富は、彼らが望むほど秘密にはできなかった。ビットコインの取引は匿名ではない。偽名で取引ができるが、すべての取引に公開元帳が存在する。だから極右勢力のメンバーのものと知られているビットコイン・アドレスへの決済は、複数のサイトに監視されている。コンピュータ・セキュリティ・サービス「スレートストップ(ThreatSTOP)」のジョン・バンベネックが運営するツィッター上の「ネオナチ BTCトラッカー」(@neonaziwallets)は、白人至上主義者の世界における仮想通貨資金の流れを記録している。

「ビットコインは、ネオナチのテロ集団が資金を調達し、使う能力を提供する。それをやめさせることは難しい」と、バンベネックはフォーリン・ポリシー誌に語った。「だが同時に、私のような情報分析アナリストが、ネオナチの動きを自由に調べる能力も提供してくれている。ビットコインの元帳は公開されているからだ。彼らはビットコインを使うことによって、プライバシーをすべて放棄することになる」

広がる極右を排除する動き

さらに、ビットコインの換金はそう簡単にはいかない。米ドルを引き出すことができる仮想通貨の交換所は数カ所しかなく、銀行は仮想通貨に基づく資金に手を出そうとしない。「ビットコインは、実際の通貨やものに変えることができて初めて意味がある」と、バンベネックは言う。「それができる場所は限られていて、そのうちの多くは極右勢力に対抗する動きを助けてくれている」

アメリカの大手仮想通貨取引所コインベースは、そのプラットフォームから暴力的な過激派を探しだし、積極的に排除する方針を打ち出している。過激派が利用するアカウントも削除している。2018年10 月27日にピッツバーグにあるシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)で銃乱射事件が起きた後には、容疑者のロバート・バワーズが大量殺戮の計画を投稿していた極右ソーシャルメディア「Gab」からツイッターやペイパルといった有力企業の撤退が相次いだ。

ネオナチには世の中に正体を明かさないようにするだけの自制心がなく、おかげでバンベネックの仕事がやりやすくなっている。たとえば、最近のある取引で、デイリーストーマーに0.001488ビットコイン(当時約5.93ドル)が送られた。「1488」はネオナチの間で合図として使われる数字だ。「14」は「われわれは白人の子供たちの存在と未来を守らなければならない(We must secure the existence of our people and a future for white children)」という14語からなる白人至上主義者のスローガンを意味し、「88」は「ハイル・ヒトラー(Heil Hitler)」を意味する。

「こういう連中は、自分を誇示することをやめられない」と、バンベネックは言う。「傲慢と無能が合体しているという、彼らの奇妙な特性には驚かされる」

クライストチャーチのテロリストにとって、仮想通貨で億万長者になる夢が笑えないジョークで終わったのも無理はない。

(翻訳:栗原紀子)

From Foreign Policy Magazine

※3月26日号(3月19日発売)は「5Gの世界」特集。情報量1000倍、速度は100倍――。新移動通信システム5Gがもたらす「第4次産業革命」の衝撃。経済・暮らし・医療・交通はこう変わる! ネット利用が快適になるどころではない5Gの潜在力と、それにより激変する世界の未来像を、山田敏弘氏(国際ジャーナリスト、MIT元安全保障フェロー)が描き出す。他に、米中5G戦争の行く末、ファーウェイ追放で得をする企業、産業界の課題・現状など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州半導体業界、自動車向けレガシー半導体支援を要望

ワールド

焦点:ロシアの中距離弾道弾、西側に「ウクライナから

ワールド

豪BHP、チリの銅開発に110億ドル投資へ 供給不

ビジネス

インド競争委、米アップルの調査報告書留保要請を却下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中