最新記事

極右

ネオナチと仮想通貨の意外な関係

Neo-Nazis Bet Big on Bitcoin (And Lost)

2019年3月22日(金)18時19分
デービッド・ジェラルド

ビットコインの思想はネオナチのイデオロギーと同じではない。だが、私的所有を重んじる右派リバタリアニズム(自由主義)と自由市場の自治を重視し、国家の廃止を提唱する「無政府主義資本主義」に基づくビットコインの理念は、極右の過激な思想とある程度共通する部分がある。どちらも「ユダヤ系銀行が世界を支配している」といった陰謀論を唱えているし、巨大掲示板の仮想通貨スレッドなど、両者が直接交流する社会的空間もある。

デービッド・ゴランビアは2016年の著書 『ビットコインの政治:右翼過激主義としてのソフトウェア』で、ユダヤ人銀行家たちの陰謀など昔からある反ユダヤ主義的陰謀論など、ビットコインを作ったさまざまな思想の歴史をまとめた。「純然たるファシストやナチスの思想にかぶれているのは、仮想通貨の利用者のうちごくごく一部だと思う」と、ゴランビアはフォーリン・ポリシー誌に語った。「だが一方で、仮想通貨の世界におけるファシストの比率は、一般よりも高いと思う。これは仮想通貨のコミュニティに陰謀論が広がっているからだ。仮想通貨の世界にいる多くの人が、明らかに事実に反するような理論を積極的に信奉する人間もいる」

差別主義の哲学者

ビットコインの支持者は、当然のことながら、仮想通貨と極右勢力の相性がいいという事実を否定している。友人や仲間が邪悪な考えをいだいていることなど、人は認めたくはないものだ。だがかなり早い時期から両者には接点があった。

無政府資本主義者で、暗号技術の利用を推進する活動家でもあったティモシー・メイは、1988年に非常に影響力のある「クリプト・アナーキスト・マニフェスト」を書いた。そこには20年後にサブカルチャーとしてのビットコインが体現する無政府資本主義に対する多くの希望と期待が描かれていた。メイは2018年に亡くなったが、それまでにビットコインの哲学者として崇敬の的となっていた。

だがメイはときおり、ユダヤ人、黒人、ヒスパニック系アメリカ人を差別するような文章を書いており、その点が世間から注目されてもいた。ビットコイン関連の友人たちは、メイがわざと炎上を誘う「釣り」として挑発的メッセージを送っているだけだと主張した。そうだとしたら、メイは30年以上にわたってネット上で「釣り」を続け、それ以外の素顔を見せることはなかったことになる。ネオナチもメイを称え、白人至上主義者のサイト「デイリーストーマー」はメイの死を悼む追悼記事を掲載した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

赤沢再生相、米商務長官と電話協議 「自動車合意なけ

ビジネス

日経平均は反発、対日関税巡り最悪シナリオ回避で安心
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中