震災と復興の教訓──日本のレジリエンス(強靭性)を世界へ
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一方でフォーラムでは、日本がレジリエンスを世界に発信するうえでの課題も議論された。
「レジリエンスと社会」をテーマに午後から行われたセッションでは、インドネシアのタナマナガラ大学で心理学を教える臨床心理学者のモンティ・P・サチアダルマ氏が、東日本大震災で津波に襲われた被災地の人々の行動について「日本のレジリエンスの特徴は人々の『忍耐力』にある」と指摘した。
これに対して会場の参加者からは、「災害発生時に被災者の忍耐を期待する日本の文化はこれから変わっていくのではないか」といった意見や、東日本大震災後の長期間、被災者が仮設住宅などで不自由な生活を余儀なくされた事実をふまえて「何をもって『復興』、『レジリエンス』とするか、あらためて日本では議論が必要なのではないか」といった意見も出された。
さらにセッションのパネリストから、「日本のレジリエンスは日本固有のものか? 世界で共有できる汎用性を持っているか?」といった問い掛けも出され、研究者、ジャーナリストといった様々な立場の参加者が意見を述べ、熱い議論が交わされた。
外国語による防災情報の重要性
この他フォーラムでは、日本を訪問する外国人観光客が急増する現状の課題も指摘された。
「レジリエンスとグローバル化する経済」のテーマで行われたセッションで「ANAクラウンプラザホテル神戸」の総支配人トーマス・マイヤーホーファー氏は、「地震を経験したことのない外国人観光客は、日本で地震に遭遇すると大変に動揺し、その後に日本語で提供される災害情報から『津波』という言葉だけを聞き取ってパニックに陥ってしまうケースもある」と述べ、災害時の外国語での情報提供の重要性を指摘した。
今回のフォーラムにはヨーロッパやアジアなど世界各国の報道機関も招待され、このうちヨーロッパのニュース専門放送局「ユーロニュース」のギリシャ人記者、アポストロス・スタイコス氏は、「日本の災害復興の経験は、諸外国にとっても有益な教訓となる。紛争やテロによって社会的分断が起きた際に、社会の団結を促し、正常化を進めることは災害復興と同じプロセスだからだ」と、感想を話していた。
2度の大震災からの復興という先進国のなかでも特異な経験を持つ日本が、その教訓を世界に発信する責務を担っていることが、今回のフォーラムではあらためて確認された。その一方で、日本のレジリエンスに諸外国の知見が活かされ、強化される必要があることもまた浮き彫りになった。今後日本がどのようにレジリエンスを世界の国々と共有していけるか――研究者やメディアにとどまらず、様々な立場の人たちによる議論が期待されている。