最新記事

防災・復興

震災と復興の教訓──日本のレジリエンス(強靭性)を世界へ

PR

2019年3月26日(火)10時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

一方でフォーラムでは、日本がレジリエンスを世界に発信するうえでの課題も議論された。

「レジリエンスと社会」をテーマに午後から行われたセッションでは、インドネシアのタナマナガラ大学で心理学を教える臨床心理学者のモンティ・P・サチアダルマ氏が、東日本大震災で津波に襲われた被災地の人々の行動について「日本のレジリエンスの特徴は人々の『忍耐力』にある」と指摘した。

これに対して会場の参加者からは、「災害発生時に被災者の忍耐を期待する日本の文化はこれから変わっていくのではないか」といった意見や、東日本大震災後の長期間、被災者が仮設住宅などで不自由な生活を余儀なくされた事実をふまえて「何をもって『復興』、『レジリエンス』とするか、あらためて日本では議論が必要なのではないか」といった意見も出された。

さらにセッションのパネリストから、「日本のレジリエンスは日本固有のものか? 世界で共有できる汎用性を持っているか?」といった問い掛けも出され、研究者、ジャーナリストといった様々な立場の参加者が意見を述べ、熱い議論が交わされた。

外国語による防災情報の重要性

この他フォーラムでは、日本を訪問する外国人観光客が急増する現状の課題も指摘された。

「レジリエンスとグローバル化する経済」のテーマで行われたセッションで「ANAクラウンプラザホテル神戸」の総支配人トーマス・マイヤーホーファー氏は、「地震を経験したことのない外国人観光客は、日本で地震に遭遇すると大変に動揺し、その後に日本語で提供される災害情報から『津波』という言葉だけを聞き取ってパニックに陥ってしまうケースもある」と述べ、災害時の外国語での情報提供の重要性を指摘した。

resilience02.jpg

神戸の理化学研究所計算科学研究機構に設置されたスーパーコンピューター「京」を視察した外国メディア

今回のフォーラムにはヨーロッパやアジアなど世界各国の報道機関も招待され、このうちヨーロッパのニュース専門放送局「ユーロニュース」のギリシャ人記者、アポストロス・スタイコス氏は、「日本の災害復興の経験は、諸外国にとっても有益な教訓となる。紛争やテロによって社会的分断が起きた際に、社会の団結を促し、正常化を進めることは災害復興と同じプロセスだからだ」と、感想を話していた。

2度の大震災からの復興という先進国のなかでも特異な経験を持つ日本が、その教訓を世界に発信する責務を担っていることが、今回のフォーラムではあらためて確認された。その一方で、日本のレジリエンスに諸外国の知見が活かされ、強化される必要があることもまた浮き彫りになった。今後日本がどのようにレジリエンスを世界の国々と共有していけるか――研究者やメディアにとどまらず、様々な立場の人たちによる議論が期待されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、4日に多国間協議 平和維持部隊派遣

ビジネス

米国株式市場=まちまち、トランプ関税発表控え

ワールド

カナダ・メキシコ首脳が電話会談、米貿易措置への対抗

ワールド

米政権、軍事装備品の輸出規制緩和を計画=情報筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中