比ドゥテルテ大統領、麻薬汚染政治家リスト公表を予告 「外国政府の盗聴利用」が二転三転、反発広がる
一転して外国の情報提供を否定、火消しへ
ところが、こうした外国政府による電話盗聴記録が麻薬政治家リストに反映されているとの指摘に対して、フィリピン麻薬取締局(PDEA)のアーロン・アキノ長官は3月7日、地元GMAネットワークのインタビューに「今回大統領が公表しようとしているリストは地元捜査機関や地方政府などから得た情報が基幹になっており、外国政府からは単に違法麻薬の供給に関する情報を提供してもらったにすぎない」と回答。外国政府による政治家の電話盗聴記録がリストの根幹になっているとの見方を完全に否定した。
外国政府の盗聴情報提供を半ば認めていた大統領府のパネロ報道官も7日になって「外国政府による盗聴記録はリスト作成に使用していない」と発言、事実上訂正するなど軌道修正に一斉に動きだした。
これは名指しされた4カ国の政府関係者からの不満や国内からの反発が予想以上に強かったことを鑑みて、公表に先立ちリストの妥当性と合法性を確実にするため、「違法な手段で入手した情報に基づくリストではない」ことを強調するためではないか、との観測が広がっている。
さらにパネロ報道官が「国際社会と共に犯罪と戦う共同戦線のなかで提供された情報」と表明したことに関しても、「フィリピンの政治家に対する海外からの電話盗聴は、フィリピン政府からの要請あるいは情報提供なしには実施されるはずがないのではないか」という国会議員や人権組織の指摘が政府の立場をさらに難しいものに追い込みかねないとの判断から、一斉に「外国政府による電話盗聴」を火消しにと方針転換したとみられている。
拙速な手法に疑心暗鬼が拡大
地元紙記者は「外国政府を持ち出すことでリストの客観性を強調しようとした政府が、逆に批判を浴びてリストの正当性に疑問が生じてしまった、という拙速なやり方だ」と政府を厳しく批判している。
ドゥテルテ大統領としては、政府部内でリストの正当性がある程度確保された時点で、一刻も早くリストを公表し、立候補している麻薬汚染政治家の実名を公にしたい意向とされ、公表を巡る議論はいよいよ最終局面を迎えている。
フィリピン政界は選挙戦の最中、このリストを巡って今、大きく揺れている。というのも公表されるリストに自分の名前が記載されていた場合、その政治家は麻薬犯罪との関連の真偽やその妥当性とは別に一方的に政治生命を絶たれ、場合によっては逮捕される可能性が高いとみられているからだ。政治家たちの間に渦巻く疑心暗鬼の中で、リスト公表を巡る必死の駆け引きがさらに激しくなっている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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