最新記事

日本社会

平成に給料がほとんど上がらなかった5つの要因 平均上昇額はわずか7万円程度

2019年3月8日(金)18時00分
岩崎 博充(経済ジャーナリスト) *東洋経済オンラインからの転載

とりわけ、自営業や中小企業の従業員だった人は、低賃金のまま働き続けることを余儀なくされている。ここでもまた実質賃金の伸びは抑えられてしまう。

経営者や行政の怠慢が招く賃金低下?

<④内部留保を貯め込んで賃金を上げない経営者>
人手不足といわれる業界は、サービス業など生産性が低迷している業界に多い。例えば、コンビニ業界で24時間営業の見直しが進められているが、粗利益の6割も取るような高いロイヤルティーは、従業員の低賃金や人手不足問題の要因であろう。

競争が激化しているコンビニ業界にとって、ロイヤルティーの引き下げは難しい課題だが、日本の少子高齢化の流れから見て、いずれは人手不足で改革を迫られる可能性はある。

バブル崩壊以前は、社員こそ最大の資源、という具合に会社も賃上げに積極的だった。優秀な人間は、一生をかけてでも育て上げていく、というのが日本企業の大きな特徴だった。それが、バブル崩壊以後は雇用さえ確保しておけば、賃上げなんていう贅沢は言わせない、という雰囲気に変わってきた。

そうして労働組合が弱体化したのをいいことに、企業は内部留保を貯め込んだ。貯めた内部留保で、人口減が予想される日本を飛び出して、新たなビジネスを求めて海外に進出すればよかったが、そうしなかった企業も多い。

いまや日本の内部留保は2017年度の法人企業統計によると、企業が持つ利益剰余金は446兆4844億円(金融業、保険業を除く)に達しており、金融、保険業を含めれば507兆4454億円となり、初めて500兆円の大台を超えている。1年分のGDPに匹敵する余剰金だ。

<⑤規制緩和の遅れがもたらした賃金低迷>
通信や交通エネルギーなどの公共料金分野は、規制緩和の遅れで現在も新規参入を阻害し価格の抑制や引き下げが遅れてしまった。価格が上がらなかったことで顧客満足度が増し、製品やサービスの価格が低く抑えられたまま日本経済は推移している。

そのツケが、従業員の賃金の上昇を抑えてきたといっていい。スーパーやコンビニ、スマホ(通信)、宅配便、外食産業といった業種では、価格が低く抑えられてきたために、賃金がいつまでたっても上昇しない。

企業経営者や行政の怠慢によって、適正な価格競争が起こらなかった結果といえる。

私たちの生活に根付いているスーパーやコンビニ、スマホ、宅配便、外食産業といったサービスは、極めて便利で安価なサービスなのだが、その背景にあるのが低賃金で働く従業員でありパートタイマーというわけだ。

以上、ざっと日本の賃金が上昇しない原因を考えてきたが、日本国民は極めて素直で、従順な民族だから、政府が一定の方向性を示すと素直に従う習慣がある。キャッシュレスもここにきて一気に拡大することでもわかる。

実質賃金が上昇しない背景には、過去の雇用政策や法改正が大きな影響を与えている。賃金より雇用という大きな流れの中で、我慢し続けている国民がいるわけだ。日本の景気回復は、まだまだ道半ばといえる。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中