アリアナ、ブルーノ・マーズなどの17曲放送禁止に インドネシア、選挙を控えてイスラム教徒に忖度?
BLACKPINKも放送禁止に
インドネシア国会では現在、放送法の改正審議が進んでおり、さらに様々な禁止規定を含めた「音楽活動に関する」法案が第5委員会で協議されている。
これに対し議員の間からは「音楽活動の妨げとなる」「表現の自由を侵すことになる」など厳しい反論が起きており、否決すべきとの声も高まっている。
インドネシアでは2018年12月11日に国家放送委員会が、インドネシア大手通販会社の広告映像に登場していたK-POPのアイドルグループBLACKPINKの衣装が「過度に肌を露出し、下品で淫らである」として各テレビ局に対し放送禁止令を出したことがある。
人口2億5000万人以上のインドネシアはその88%がイスラム教徒で、イスラム教徒人口としては世界最大を擁する国である。それだけに社会文化生活の隅々まで「イスラム教の規範」が価値判断の基準とされ、LGBTなどの性的少数者、キリスト教徒、仏教徒などの宗教的少数者への差別に加えて「性的、猥褻」な問題にも厳しい措置が取られることが多い。
今回「槍玉」に上がったアリアナ・グランデの「ラブ・ミー・ハーダー」の音楽ビデオをみると、下着のような衣装でくねくねと体をくねらせる様子に加えて歌詞の中で「もっと激しく、もっと激しく」というくだりがあり、そのあたりが放送委員会の「極めて猥褻である」「性的関係を連想させる」に該当したものとみられている。
大統領選も絡み揺れる価値観
インドネシアは4月17日に大統領選、国会議員選挙などを控え、現在国中が選挙運動期間中で政治的に極めて微妙な時期を迎えている。こうした中で大票田であるイスラム教徒の有権者の支持を確実にするため、イスラム教徒は穏健派を含めてより保守的に、また他宗教の候補者もイスラム的にならざるを得ない背景がある。
今回の放送禁止措置は一地方での出来事とはいえ、これに堂々と反論したり異を唱えたりすることは「反イスラム」のレッテルを貼られることに繋がりかねないとの危惧からタブー視されている。
インドネシアの国是である「多様性の中の統一」や「寛容性」は、こうした「その時の政治状況の中」で翻弄され、その価値観は揺れ動いているのが現状である。
その証拠という訳ではないが、今回、深夜時間帯以外で放送禁止されたこれらの曲を収めたCDは白昼から堂々と路上や店舗で販売され、またインターネット上では年齢に関係なく音楽ビデオが視聴可能、と抜け道はいくつも残されている。それがインドネシアらしいといってしまえばそれまでだが。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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