辺野古「反対多数」 沖縄ルポで見えた県民分断のまぼろし
OKINAWAN RHAPSODY
過去から未来へと続いていく(沖縄市コザ) PHOTOGRAPH BY KOSUKE OKAHARA FOR NEWSWEEK JAPAN
<県民投票を直前に控えて基地問題に揺れる沖縄へ、ノンフィクションライターの石戸諭氏が飛んだ。「複雑」と表現されるこの島で聴こえてきたのは、自由で多層な狂詩曲だった。全5章から成る沖縄現地ルポの第1章>
※2019年2月26日号(2月19日発売)は「沖縄ラプソディ/Okinawan Rhapsody」特集。基地をめぐる県民投票を前に、この島に生きる人たちの息遣いとささやきに耳をすませる――。ノンフィクションライターの石戸諭氏が15ページの長編ルポを寄稿。沖縄で聴こえてきたのは、自由で多層な狂詩曲だった。
Queen(クイーン)の名曲「Bohemian Rhapsody(ボヘミアン・ラプソディ)」は、「これは現実か、それともただの幻想か?」と問い掛けるシーンから始まる。その歌は今の沖縄にこそ当てはまるように思える。沖縄は事あるごとにメディアに登場するが、その報道の多くは一面的な事実を全てであるかのように語り、時に幻想的な「沖縄」像をつくり上げてきた。あるいは都合のいい声だけを拾い上げてきたとも言える。
ラプソディ、狂詩曲とは一定の形式を持たない、自由奔放な楽曲のことを言う。これまでの沖縄語りから離れ、自由で多層で、異なる声が聞こえるルポルタージュを――。そう考え、県民投票を直前に控えた沖縄に向かった。
【狂詩曲 第1番】オン・ザ・ロード
沖縄県那覇市中心部にある「リブロリウボウブックセンター」の書店員・宮里ゆり子(36)は、今もなお信じられないという思いで、ある数字を見つめている。
2019年1月16日のことだ。早番シフトだった彼女は、通常なら18時で仕事を終えるところ、間もなく発表される直木賞に備えて店内で待機していた。彼女は郷土本コーナーの担当者である。沖縄でちょっと大きな書店に入れば、どこに行っても沖縄関連本のコーナーがある。地元出版社のもの、レシピ本、町歩き、そして米軍基地問題――。
最終候補5作の1つとして真藤順丈のエンターテインメント小説『宝島』(講談社)がノミネートされていた。舞台は1952年から1972年の沖縄、つまり沖縄戦直後に始まる米軍統治時代から72年の本土復帰までの激動の時代だ。もし、受賞したらと彼女は思う。「ポップを作って、目立つようにしなければ」
『宝島』は1月15 日まで、より正確に言えば16日夜まで目立った動きがない本だった。それが受賞が決まった翌日午後には40冊がほとんど売り切れた。追加で入ってきた70冊も予約で完売、続いて入荷できた50冊も予約分だけで完売し、店頭出しはできなかった。以降、入荷して並べてはわずかな時間で完売を繰り返す。
「そんなわけで、今日も棚にないのです。明日には200冊入ってくるんですけど......」。2月3日、宮里は申し訳なさそうな顔で取材に応じてくれた。
前日2月2日、私が東京で読んだ朝刊は沖縄で2月24日に予定されている県民投票のニュースを大々的に報じていた。それはこんな内容だった。
名護市辺野古の新基地建設で埋め立ての賛否を問う県民投票をやると県議会で決まったのに、「賛成か反対かでは選択肢の幅が狭い」などと5市長が不参加を表明。3割超の県民が投票できない事態になり、抗議のハンガーストライキまで始まった。