最新記事

BOOKS

数百万人の「中年フリーター」が生活保護制度を破綻させるかもしれない

2019年2月19日(火)06時55分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<アルバイト3つ掛け持ちで妻子を養う、リストラで仕事と住居を同時に失う......。就職氷河期に正社員になれず非正規雇用で働き続けてきた人たちが、年金を受給する年齢になればどうなるか。これは、国家を揺るがしかねない問題だ>

『ルポ 中年フリーター:「働けない働き盛り」の貧困』(小林美希著、NHK出版新書)の著者によれば、35~54歳のうち、非正規雇用労働者として働く「中年フリーター」は約273万人。だとすれば、同世代の10人に1人を占めていることになる。

ちなみにこの数字に既婚女性は含まれておらず、同年齢層の女性の非正規で、扶養に入るための「就業調整をしていない」人は414万人もいるため、潜在的な中年フリーターはさらに多いと推測されるという。


 この言葉にスポットライトがあたるようになったのは、二〇一五年のことだ。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの尾畠未輝研究員の試算によれば、中年フリーターは増加の一途にあり、一五年時点でおよそ約二七三万人いるという。
 いうまでもなく、彼らは正社員に比べて貯蓄が少なく、社会保険の加入率も低い。そのまま年金を受給する世代になると、月七万円に満たない国民年金しか受け取れない。となれば、生活は立ち行かなくなり、生活保護が視野に入ってくるだろう。ところが、日本の財政はそれだけのボリュームを支える状況にない。生活保護という制度そのものが破綻しかねない状況だ。(「序章 国からも見放された世代」より)

中年フリーターがここまで増えてしまったのは、日本では新卒時に正社員になれなかった場合、そのまま非正規の職に就くことが多いからだ。そして、かつて新卒時に就職氷河期を経験した世代が、今や中年(35~54歳)にカテゴライズされる年齢になったということである。

「就職氷河期世代」や「ロスジェネ世代」などと呼ばれた層が、正社員の職を得ることもなく、そのまま移行していったという図式だ。

自身が就職氷河期世代に属し、この問題に長年取り組んできたという労働経済ジャーナリストの著者は、「失われた10年」が「失われた20年」へと長引いたのは、雇用問題について国が本気で取り組まなかったからだと指摘する。

著者が大学を卒業したのは、大卒就職率が統計上、初めて6割を下回って2人に1人しか就職できなかった2000年。当時は「フリーターは甘い」「若者が仕事を選り好みしている」という風潮が強く、この問題は真剣に議論されることなく埋もれてしまっていたという。

その間に「若者」だった人たちは「中年」になり、そのツケが「中年フリーター」となっているということだ。しかも気づいている人は限られているものの、それは国家を揺るがしかねない問題となっている。


 中年フリーターが正社員になれない背景には、不況期に正社員の採用が絞り込まれているという事実がある。いったん非正規雇用になってしまうと「スキルが身につかない」、あるいは「スキルがついても認めてもらえない」という状態が続くため、景気が回復して求人が増えても、思うような職には就けない。(「序章 国からも見放された世代」より)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き

ビジネス

トランプ氏、ビットコイン戦略備蓄へ大統領令に署名

ビジネス

米ウォルマート、中国サプライヤーに値下げ要求 米関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中