最新記事

中国

中国の量子通信衛星チームが米科学賞受賞

2019年2月18日(月)12時40分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

世界初の量子通信衛星、中国が打ち上げ成功 China Daily/REUTERS

中国は人類が解読できない「量子暗号」を搭載した量子衛星「墨子号」を打ち上げ、人類初の量子暗号通信に成功している。2月14日、ワシントンでそのチームが米クリーブランド賞を受賞した。中国大陸では初めてのことだ。

暗号を制する者が世界を制する――人類が解読できない「量子暗号」

2016年8月16日午前1時40分、中国は世界で初めての量子通信衛星「墨子(ぼくし)号」の打ち上げに成功した。「長征2号」ロケットを使い、中国甘粛省のゴビ砂漠にある酒泉衛星発射センターから発射した。

量子通信衛星というのは、人類が解読できない「量子暗号」を搭載した人工衛星のことである。この研究を主導した中国科学院宇宙科学先導特別プロジェクトのリーダーを務めたのは、中国科学院量子信息(情報)・量子科学技術創新研究院院長で、中国科学技術大学の副学長でもある潘建偉氏だ。彼は中国共産党員ではなく、中国にある八大民主党派の内の一つ、「九三学社」の党員であることが興味深い。

1970年生まれの潘建偉は、1996年(26歳)でオーストリアに留学し、宇宙航空科学における最高権威の一人であるツァイリンガー教授に師事した。2001年に中国に帰国し、以来、「量子暗号」の研究に没頭した。

「量子暗号」というのは「量子(quantum)」の「粒子性と波動性」(非局所性)を用いた「量子もつれ通信」のことで、「量子通信」は「衛星・地球面の量子鍵配送」や「地球面から衛星への電子テレポーテーション」などによって通信する手段だ。「鍵」を共有しない限り、絶対に第三者により情報を盗まれることはない。

中国は2017年には墨子号を通して、オーストリアと北京の間の量子通信に成功し、2018年にトップニュースの形でイギリスの学術誌『ネイチャー』に掲載され、アメリカの学術誌『サイエンス』にも掲載された(「量子暗号」や「量子通信」あるいは「鍵」などの詳細に関しては、拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるか』の第四章で述べた)。 

問題は、「暗号を制する者が世界を制する」と言われる中、現段階では人類の誰にも解読できない「量子暗号」生成に成功し、それを搭載した「量子通信衛星」を最初に打ち上げたのが、アメリカでもなければ日本でもなく、ほかならぬ中国だったということである。

5G がどうのこうのと言っている場合ではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

HIKAKIN所属のUUUM上場廃止へ、親会社のT

ビジネス

日経平均は3日続伸し4万円回復、実質新年相場は大幅

ワールド

プーチン大統領、スロバキア提案のウクライナ和平交渉

ビジネス

スズキの鈴木修元会長が死去 94歳
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 2
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 3
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部の燃料施設で「大爆発」 ウクライナが「大規模ドローン攻撃」展開
  • 4
    「とても残念」な日本...クリスマスツリーに「星」を…
  • 5
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 6
    なぜ「大腸がん」が若年層で増加しているのか...「健…
  • 7
    わが子の亡骸を17日間離さなかったシャチに新しい赤…
  • 8
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 9
    日本企業の国内軽視が招いた1人当たりGDPの凋落
  • 10
    滑走路でロシアの戦闘機「Su-30」が大炎上...走り去…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 4
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 5
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 6
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 7
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 8
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    なぜ「大腸がん」が若年層で増加しているのか...「健…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中