インドネシア警察、ヘビ押し付けて容疑者取り調べ 背景に少数民族への差別・優越意識
根深いパプア人へ差別、偏見、優越感
こうした歴史的背景も今回のような治安組織によるパプア人への人権侵害の根底にあるとの見方は強い。
そうした差別意識、偏見、優越感は治安組織に限らず、中央政府などジャワ人主体のインドネシア全体に言えることでもある。8月17日の独立記念日に最近はジョコ・ウィドド大統領以下閣僚、国軍・警察の首脳が各民族の伝統衣装で着飾って参列することが好例化している。その際にほぼ裸体に近く、野獣の牙や角、鳥の羽などでパプア人の格好をして喝采を浴びる人が必ずいる。
実際のパプアでは裸体に男性は「コテカ」と呼ばれるペニスケースだけという伝統的装束は相当な山間部に行くか、観光客向けでしか実際はないのだが、そうした衣装を身に付けることをパプア人は「未開民族みたいに馬鹿にされている」と感じていることを大半のインドネシア人は気づかない、あるいは気づかない振りをしているとの指摘がある。
今回のヘビを使った尋問のケーズは、たまたま動画が流出して大きな話題になっているが、こうした背景を考える時、インドネシアが掲げ、ジョコ・ウィドド大統領も主張する「多様性の中の統一」や「寛容性」という国是が所詮、少数派には無縁のものであるとの印象をどうしても拭えなくなる。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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