ブレグジット後の英国は「海の覇者」として復活する
Return to the Far East
シドニー湾に寄港する英海軍の駆逐艦デアリング(2013年) KEITH MORGAN-ROYAL NAVY
<英EU離脱後を見据えた、意外な動きがある。メイ政権の「グローバル・ブリテン」構想により、誇り高き英海軍が世界の大海原に戻ってくる>
※2019年2月12日号(2月5日発売)は「袋小路の英国:EU離脱3つのシナリオ」特集。なぜもめている? 結局どうなる? 分かりにくさばかりが増すブレグジットを超解説。暗雲漂うブレグジットの3つのシナリオとは? 最大の焦点「バックストップ」とは何か。交渉の行く末はどうなるのか。
ブレグジット(イギリスのEU離脱)後のイギリスは、世界の舞台でどのような役割を果たすべきか――。テリーザ・メイ首相ら英政権の閣僚たちは、かなり前からこの問題を検討していたらしい。そして運命の国民投票の数カ月後に、メイとボリス・ジョンソン外相(当時)が示したのが「グローバル・ブリテン」構想だ。
メイは2016年10月の保守党大会で、グローバル・ブリテンとは、イギリスが「自信と自由に満ちた国」として「ヨーロッパ大陸にとどまらず、幅広い世界で経済的・外交的機会を求める」構想だと説明した。なぜなら国民投票の結果は、イギリスが「内向きになる」ことではなく、「世界で野心的かつ楽観的な新しい役割を担う」ことへの決意表明だったから、というのだ。
この「世界における新しい役割」には、英海軍がインド太平洋地域で再び活発な役割を果たすことが含まれる。例えば、キム・ダロック駐米大使は2018年、「航行の自由を守り、海路と航空路の開放を維持する」べく、空母クイーン・エリザベスがインド太平洋地域に派遣されるだろうと述べた。
同年にオーストラリアを訪問したジョンソンは、英海軍が2020年代にクイーン・エリザベスとプリンス・オブ・ウェールズの空母2隻を南シナ海に派遣すると語った。英海軍の制服組トップである第一海軍卿も、2020年代にクイーン・エリザベスを南シナ海に派遣すると語っている。
イギリスの外交政策はあまりにも長い間、ヨーロッパという狭い地域に縛られていたというのが、英政府高官らの考えだ。彼らにとってブレグジットは、イギリスが単独で世界的な役割を果たすチャンスだ。2018年末のサンデー・テレグラフ紙のインタビューで、ギャビン・ウィリアムソン国防相は次のように語っている。
「(ブレグジットによって)イギリスは再び真のグローバルプレーヤーになる。私はそこで、軍が極めて重要な役割を果たすと考えている。......わが国のリソースをどのように前方配備して抑止力を構築するか、そしてイギリスのプレゼンスを確立するかを、私は大いに検討している。このような機会は極東だけでなく、カリブ海地域にも存在すると考えている」
さらにウィリアムソンは、「今後2年以内に」、極東に軍事基地を設置する計画を明らかにしている。現時点の候補地はブルネイとシンガポールの2カ所だ(イギリスは現在、シンガポールのセンバワン海軍基地に小規模な後方支援拠点を持つ)。