ブレグジット後の英国は「海の覇者」として復活する
Return to the Far East
実際、イギリスは近年、東南アジアにおける防衛活動を拡大している。その根拠となっているのは、1971年に英連邦5カ国(イギリス、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド)が締結した防衛協定(5カ国防衛協定)だ。
ウィリアムソンは、2018年6月に開かれたアジア太平洋地域の安全保障会議「シンガポール・ダイアローグ」で、イギリスは海軍艇を派遣することにより、この地域の海における「ルールに基づくシステム」を強力に支持していくと語った。「国家はルールに沿って行動する必要があること、そうしない場合にはそれなりの結果が伴うことを明確にする必要がある」
さらに英外務省のマーク・フィールド閣外相(アジア太平洋担当)は昨年8月、訪問先のインドネシアのジャカルタで講演し、イギリスはアジアで恒久的な安全保障プレゼンスを維持する決意だとして南シナ海における航行の自由と国際法の尊重を各国に促した。
これまで英海軍の艦艇が極東に派遣されたのは2013年が最後だった。同年、駆逐艦デアリングがオーストラリア海軍の創設100周年記念行事に派遣され、5カ国防衛協定の合同軍事演習にも参加した。この年は超大型台風ハイエンの被害を受けたフィリピンの人道支援活動のため、軽空母イラストリアスも派遣された。だが、その後の派遣はぱったり途絶えていた。
一段と活発化する武器輸出
状況が変わったのは2018年4月だ。イギリスは朝鮮戦争以来となる海軍艇3隻を極東に派遣した。強襲揚陸艦アルビオンは、オーストラリアとニュージーランドに寄港し、5カ国防衛協定の合同軍事演習に参加した。対潜フリゲート艦サザランドとフリゲート艦アーガイルは、日米韓合同軍事演習に参加するとともに、北朝鮮に対する経済制裁の履行監視活動に参加した。
南シナ海では、英海軍とフランス海軍の合同チームが、航行の自由を確保するための哨戒活動を実施。アルビオンも8月に日本に寄港後、西沙群島(パラセル)近海で哨戒活動を行い、ベトナムのホーチミンに親善目的で寄港している。米海軍との合同演習も、この地域における英海軍のプレゼンス強化をアピールするものになった。
イギリスがインド太平洋地域に再び強力に関与するようになった背景には、3つの大きな要因がある。
第1に、イギリスはブレグジット後、EU加盟国としてではなく、独立した存在として世界における役割を規定しなければならない。その点、イギリスの貿易額の12%が通過する南シナ海、さらにはインド太平洋地域の安定と、ルールに基づく国際秩序の形成をサポートすることは、外交的にも経済的にも理にかなっている。
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