最新記事

航空機

エアバスA380生産終了へ 「欧州産業界の夢」はなぜ失速したか

2019年2月19日(火)16時00分

旅客から愛され、会計担当者からは恐れられた世界最大の旅客機の生産中止が決まった。2010年1月、スイス東部上空を試験飛行するエアバスA380。スイス空軍提供(2019年 ロイター)

旅客から愛され、会計担当者からは恐れられた世界最大の旅客機の生産中止が決まった。欧州航空大手エアバスは、運用開始から12年にして、販売不振を理由に超大型旅客機「A380」の生産をやめると発表した。

欧州産業界最大級の挑戦に終止符が打たれることになる。巨大な旅客機を投入することで空港の混雑を解消するというエアバスのビジョンに航空会社の支持が集まらず、受注が伸び悩んだ。

世界の航空機の運航量は記録的な速さで増加している。だがこれにより需要が伸びたのは、旅客を目的地まで直接運べる、小回りの利くエンジン2基の双発機であり、ハブ空港まで旅客を運んで乗り換えさせるエンジン4基の巨大旅客機ではなかった。

A380の最大顧客であるエミレーツ航空など忠実な顧客は、544座席の機体は満席の場合、利益が出るとしている。だが、2階建て構造の巨大な機体を飛ばすための燃料代がかさむため、空席が1つ増えるごとに航空会社の財務に穴が開くことになる。

「エアラインの最高財務責任者(CFO)を震え上がらせる機種だ。空席が大量に出るリスクが高すぎる」。航空産業のある幹部は、こう説明した。

かつて欧州単一通貨の産業版といえる発明だと評価され、欧州のシンボルとして世界的に認知されたA380の失敗は、機体の生産拠点が置かれている英国とフランス、ドイツとスペインの政治情勢の変化と時期が重なった。

2005年、欧州各国首脳を招いて華やかに完成披露の式典が行われ、欧州の統一と明るい未来を内外に示したことを考えれば、隔世の感がある。

当時のブレア英首相はA380について、「強い経済の象徴」だと述べ、スペインの同サパテロ首相は「夢が現実になった」と褒めそやした。

利用客も、翼幅が車70台分もあるA380の巨大さに目を見張った。A380は、米航空大手ボーイング(BA.N)の大型旅客機「747」のこぶのように盛り上がった2階部分が、そのまま最後尾まで伸びたような外見をしている。

航空各社は当初、競って発注した。2001年9月の米同時多発攻撃後に落ち込んだ旅客数が次第に回復し、運航コストが下がって利益が伸びることを期待したからだ。

エアバス側は、700─750機のA380を受注し、ボーイング747を過去のものにすると息巻いていた。A380の価格は現在、1機あたり4億4600万ドル(約491億円)程度だ。

だが実際は、A380の受注はようやく300を超えたところだ。ライバルのボーイング747は今週、誕生から50周年を迎え、A380よりはるかに長命な機種となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表

ワールド

中国、日本人の短期ビザ免除を再開 林官房長官「交流

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中