最新記事

事件

フィリピン教会爆破事件はインドネシア人の自爆テロ? 2回目のイスラム教自治権投票控え緊張高まる

2019年2月2日(土)17時20分
大塚智彦(PanAsiaNews)


死者22人を出したホロ市のカトリック教会爆弾テロ事件についてインドネシア人犯行説を伝える現地メディア ABS-CBN News / YouTube

インドネシア人男女による自爆テロ説

また、犯人像についてアニョ内務相は目撃者による「普段は見たことのない人物がいた」「インドネシア人のようにみえた」などの証言や、犯行を主導したことが確実視されているフィリピンのイスラム教過激組織「アブサヤフ」のネットワークなどから、同じイスラム教徒のインドネシア人あるいはマレーシア人を含む外国人犯行関与説も浮上している。

「犯人はインドネシア人の男女で夫婦の可能性がある。情報当局にはそうした情報が寄せられている」とアニョ内相は明確な理由を明らかにせずに、インドネシア人男女犯人説をとなえた。

加えてフィリピンではこれまで同種の爆弾テロでいわゆる自爆テロの事例がほとんどなく、テロの方法としてもフィリピン人以外の犯行の可能性がある、との見方も伝えられている。

事件発生直後に中東のテロ組織「イスラム国(IS)」の関連サイトを通じて出された犯行声明では、自爆テロを示唆する内容となっているが、フィリピンでISとの結びつきが強いのが「アブサヤフ」であることから、犯人を現場の教会まで案内したり、爆弾を準備したりするなどで「アブサヤフ」が犯行を支援したのは間違いない、と治安当局はみている。

事件直後の監視カメラに記録されて事件との関与が疑われた人物についての捜査も続けられているが、事件と無関係の市民だったり、所在不明だったりと捜査は進展していない。

バンサモロ基本法投票との関連は?

フィリピンでは南部のイスラム教徒が多数居住する地域を中心にイスラム自治政府を創設する「バンサモロ基本法」に基づき、その帰属を巡る住民投票が今回事件のあったスールー州などで1月21日に実施された。

ホロ市の教会爆弾テロは、この住民投票の集計結果に不満を抱く「アブサヤフ」の犯行であり、サンボアンガのモスク襲撃はその報復との見方が依然として有力だ。

しかし「インドネシア人による自爆テロ」の可能性が強くなってきたことから、バンサモロ基本法の住民投票とは直接関係のない、あるいは住民投票に便乗したイスラム教組織によるキリスト教徒に対する宗教テロ、との見方も出始めている。

いずれにしろ鑑識や検死などの専門的見地から捜査を主導する国家警察などは「まだ確定的なことはまだ何ひとつ分かっていない」として慎重な姿勢を示している。

こうした中で「インドネシア人男女による自爆犯行説」が浮上して、一人歩きしているような現状はフィリピン政府、治安当局による捜査が手詰まり状況にあり、現在もなお戒厳令下にあるフィリピン南部ミンダナオ島周辺地域の治安状況が極めて不安定な状態にあることを浮き彫りにしているといえる。

2月6日には「バンサロモ基本法」に基づく住民投票の2回目が一部地域で予定されており、警戒監視が一層強化されるなか、再び緊張が高まっているという。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中