中国共産党の影が動画アプリ「TikTok」を覆う
ByteDance Can't Outrun Beijing's Shadow
国内では、バイトダンスは繰り返し共産党に屈服している。昨年4月には、ジョーク共有アプリ「内涵段子」が「低俗な」コンテンツを理由に閉鎖を命じられた。
張は反省文を公開。「社会主義の中心的価値観に不相応のコンテンツだった」と説明し、今後は「権威ある(党公認)メディアとの連携を深め、権威あるメディアのコンテンツの配信を増やし、権威ある(党公認)メディアの声を伝えることに力を入れる」と約束した。
バイトダンスの製品が政府の取り締まりを受けた後、抖音では、警察や軍を宣伝する動画が以前より頻繁に表示されるようになった。恐らくアルゴリズムのリコメンド機能をいじったのだろう。
ただし、中国企業が国外でシェアを伸ばすほど、共産党との関係や依存が注視されるようになる。国際社会では、中国の影響力と、公的領域でIT企業が果たす役割への懸念が高まっており、世界進出を目指す企業の足かせになりかねない。
グーグルやツイッター、フェイスブックは数々の批判を受けて、フェイクニュース対策に本気で取り組み始めた。バイトダンスも、現地の言語に精通したコンテンツ管理者の採用や、フェイクニュースの通報に賞金を出す試み、不審なアカウントの削除、地元のファクトチェッカーとの提携などを進めている。
企業に選択の自由はない
バイトダンスにはもう1つ、欧米のIT企業とは共有できない問題がある。常に中国政府の介入がちらついても、一企業には何もできないのだ。
中国政府はいずれ、バイトダンスのようなコンテンツプラットフォームが、国外の世論に対して持つ潜在的な影響力に気付くだろう。人々をニュースやエンターテインメントのアプリに依存させることは、世論を誘導する強力なルートになり得る。
例えば、バイトダンスのアルゴリズムを操作して、特定の候補者の当選を後押しすることも考えられる。それに比べたら、ロシアが16年の米大統領選でソーシャルメディアの宣伝に数百万ドルを投じたことなど、子供の遊びに思えてくる。
しかも、コンテンツ表示のアルゴリズムを微妙に操作するといった手法は、ロシアのような選挙介入より発覚しにくい。「有権者登録を忘れずに!」というメッセージを、特定の候補者の支持者に向けて多めに発信しても、気が付きそうにない。
とはいえ中国企業も、このような外交政策に関して、政府に進んで協力しているわけではない。エドワード・スノーデンが米国家安全保障局(NSA)による監視の実態を暴露した後、欧米の企業は、政府から情報提供を求められても抵抗している。消費者の信頼こそ、自分たちのビジネスの核心だと理解しているからだ。