米中貿易戦争の行方を左右する「ライトハイザー」の影響力
TARIFF MAN
それでも自由貿易派は「傍観し、(現実を)受け入れる」しかないと考えていたが、大統領のロナルド・レーガンは違った。彼は1974年の通商法が大統領に与えた奥の手を使うことも辞さなかった。国内企業に不当な打撃を与えている外国企業に対し、GATT(WTOの前身)を迂回してダイレクトに制裁を加えることを認めた「スーパー301条」である。
ライトハイザーは日本に対する「スーパー301条」の発動で中心的な役割を果たした。そして米政府は幅広い日本製品に関税を課すと脅して、日本側に対応を迫った。
日本側はこれに激怒したが、この戦術は一定の成果を上げた。以後、日本は米国製半導体の輸入を増やしていくことに同意し、いわゆるダンピング輸出を規制する複雑な制度の導入にも応じた。またアメリカは日本の自動車業界に対し、完成品の輸出よりも米国内での生産を増やすよう圧力をかけた(そうすれば米国内の雇用が増え、対日貿易赤字は減る)。今では米国内に日本の自動車工場が24もある。
ライトハイザーに批判的な人々は、彼の考え方が短絡的だと指摘する。アメリカの主要同盟国である日本を取引に応じさせて危機を回避した成功体験から、およそ同盟関係にはない中国にも同じ手が使えると安直に考えているのではないかと。
しかしUSTRの職員やライトハイザーをよく知る人々は、そうした指摘に反論する。実際、ライトハイザーは今の対中貿易の問題が1980年代の日本より複雑であることを理解している。一方で貿易交渉に勝つカギは「自国の強みがどこにあるか」を知ることだとも信じている。そして中国経済の減速が明らかでアメリカ経済に勢いがある今は、ひたすら対中圧力を強めるのが得策と考えている。
「だからといって彼が関税や、それがアメリカの産業界や株式市場にもたらすリスクを知らないわけではない」と、彼をよく知る人物は言う。そして必ずしも「2国間の貿易赤字ばかりを重視しているわけでもない」と。
USTRが中国へのスーパー301条発動に備えた調査で指摘したように、長い目で見て大事なのは中国を説得することだ。外国企業の排除や知的財産の侵害、技術移転の強要などによって国内企業を育てようとするやり方には必ず大きな代償が伴うことを、中国側に理解させる必要がある。
専門家は「危険な方針」と警戒
今のままだと中国経済は高率関税で傷つき、中国企業の対米直接投資がやりにくくなり、アメリカの投資家は貿易戦争への懸念から資金を引き揚げるだろうが、それはやむを得ないとライトハイザーは考えているようだ。