初打ち上げとなるか、飛行機からの空中発射ロケット「ランチャーワン」
空中発射ロケット「ランチャーワン」を取り付けた母機コズミック・ガール photo:Virgin Orbit
<リチャード・ブランソンの航空機を母機とするロケット「ランチャーワン」打ち上げが、今年は実現しそうだ>
ワシントン・ポスト紙のクリスチャン・ダベンポート記者による『宇宙の覇者 ベゾスvsマスク』には、宇宙ビジネスを追求する大富豪として、ジェフ・ベゾス、イーロン・マスクだけでなくリチャード・ブランソンが登場する。
ブランソンは、熱気球、鉄道、航空機と冒険的な乗り物を追い求め、宇宙船開発前から「ヴァージン・ギャラクティック」の企業名を考案し登記していた。そして、マイクロソフトの創業者ポール・アレンが出資した宇宙船「スペースシップ1」が2004年にXプライズで高度100キロメートルの宇宙へ到達すると、すぐさま「宇宙旅行ができる機体へ発展させよう」とポール・アレンに持ちかけた。
その後、「スペースシップ2」と名付けられた乗客6人登場可能な宇宙船は、開発期間の長期化、死傷事故などのハードルを乗り越えて2018年12月に高度82.7キロメートルの宇宙(宇宙空間の始まりとされる高度は複数あり、米空軍の基準を採用すれば80キロメートルから宇宙になる)に到達した。商業運航は「まもなく」とブランソンはこれまで何度も口にしていたが、確かに間近に迫っていると言えそうだ。
「人工衛星のことなど考えたこともなかった」ブランソンだが ......
ヴァージン・ギャラクティックは、商業運航を開始できずに宇宙船の開発期間が長期にわたったため、宇宙旅行以外のビジネスが必要になっていた。ダベンポート記者によれば、ブランソンは「ヴァージン・ギャラクティック設立時には人工衛星(打ち上げ)のことなど考えたこともなかった」とインタビューに答えたという。宇宙旅行というセクシーな事業に熱中し、人工衛星打ち上げという手堅い宇宙ビジネスには当初関心を示さなかったブランソンだが、2007年にスペースシップ2の母機を使って衛星を打ち上げるという構想が生まれた。
アイデアを提供したのはイギリス、サリー大学発の小型衛星ベンチャーで欧州で小型衛星開発を牽引してきたサリー・サテライト・テクノロジーズだ。「ランチャーワン」と呼ばれる空中発射式の小型衛星専用ロケットは、2012年に開発が始まった。
ロケットの空中発射方式は、米オービタル・サイエンシズ(現在はノースロップ・グラマンに吸収された)によるペガサスというロケットが実績を上げている。航空機を母機とすることで、低コストで衛星を軌道投入できる。初期の構想では打ち上げ能力は100キログラム級と小さいものの、打ち上げ価格500万~1000万ドルとしており、当時としては相当に低価格だ。2018年に商用運航を開始したニュージーランドに射場を持つロケットラボのエレクトロンロケットの場合、数キログラムの衛星1機の打ち上げ費用は8万ドルからとなっている。
その後、ランチャーワンを搭載する航空機は、「コズミック・ガール」と呼ばれるヴァージン・アトランティックで使用していたボーイング747へ変更された。衛星の搭載能力は最大500キログラムと増したが、打ち上げコストは1200万ドルとなった。初期の顧客としてNASAから超小型衛星の打ち上げ委託契約も結んでいる。