深刻化するバンコクの大気汚染 熱帯の都市にマスク着用は根付くか?
航空機による人工降雨作戦開始
一方、1月15日からは農業航空局が航空機で市内上空に塩化ナトリウムなどの薬剤を散布し、人工的に雨を降らせる「人工降雨作戦」を開始した。関係者は「実際に雨が降るかどうかはその時の気象状況にもよる」としているが、2機が飛んだ15日はバンコク中心部など複数の地点で降雨が観測されたという。この降雨作戦は18日まで断続的に実施する予定とされ、その効果に期待が寄せられている。
大気汚染は風の影響などでバンコク南東部のリゾート観光地パタヤでも観測されるなどバンコク首都圏から周辺地区にも拡大しており、効果的な対応が急務となっている。
国際的な環境団体「グリーンピース」のタイ支部は大気の汚染状況を示す「大気質指数(AQI)」でバンコクは世界の都市のワースト10にランクされる状況にある、と指摘。
AQIでは大気の汚染度を6段階(良好・中程度・繊細な人には不健康・不健康・非常に不健康・危険)に区分しているが、最近のバンコクは「誰もが健康への影響を受け始める可能性があり、より繊細な人はさらに深刻な健康被害が予想される」という「不健康」のレベルに分類されており、グリーンピースは政府に早急な対策と市民への警戒を呼びかけている。
タイは現在2月まで続く乾季にあり、その後猛暑の暑気を迎え、4月の中旬以降に待望の雨期を迎える。このため、今後数カ月は大気汚染問題がバンコク市民にとってもプラユット政権にとっても最大のそして緊急の課題となる。
タイはプラユット政権が2月24日に民政移管の総選挙実施を打ち出したが、王室行事との関係で再度延期の可能性が出てきたことから「総選挙延期反対」の市民デモや集会がこのところ頻発するなど社会不安も高まりつつある。
気温35度から37度、ときに40度近くまでなるタイらしい猛暑の暑気を前に、タイは政治的、社会的にも「熱い季節」に突入しており、そこに大気汚染という環境問題が輪をかけて、昼間は息苦しく、夜は寝苦しい日々が続くことになりそうだ。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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