最新記事

気候変動

地球温暖化で島国が海に沈むとき、国際秩序が崩壊する

RISING TIDES SINK GLOBAL ORDER

2019年1月15日(火)17時15分
アダム・トゥーズ(コロンビア大学教授)

カリブ海地域が受ける影響はアメリカにも波及する(ニュージャージー州) MARK WILSON/GETTY IMAGES

<温暖化を軽視し続けるアメリカ――大国が小国を踏みにじればしっぺ返しが>

ポーランド南部のカトウィツェで18年12月上旬、国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)が開催された。地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」の今後の実施指針について、協議は上首尾に進んだと参加国は自画自賛した。

だが、それはあくまでも「指針」の話。アメリカ、サウジアラビア、ロシアなどは「このままでは世界は滅亡する」というIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新報告書に異を唱え、ブラジルは次回開催の誘致を中止。二酸化炭素排出については何も決まらず、ポーランドとアメリカは石炭への依存継続を改めて宣言すらした。

ただの無分別ならいずれ改めようもあるが、気候変動問題は改めようにも時間に限りがある。「温暖化は地球市民全員に影響を及ぼす」とは誰もが言うこと。それがあまり深刻に捉えられていないのは、国によって被るリスクが大きく違うからだ。現在の予測どおり地球の年平均気温上昇が3.5度に達すれば、カリブ海や太平洋の島国は海面上昇によって消滅する危険がある。

この温暖化危機は国際政治の前提をも揺るがしている。地球規模のリスクがありながらその影響が国ごとにこれほど不平等な場合、国家主権に何の意味があるのか。真っ先に影響を受ける国々は政治的に何ができるのか。いざ海に沈み始めたら、世界はどう責任を取るのか。いずれも、現在の国際秩序に大変革を強いる問いになるだろう。

テロが起きるとの予測も

特にその問いを突き付けられているのがアメリカだ。保守派議員らは率先して温暖化否定論で国際世論を主導してきた。だが温暖化の影響でアメリカが担ってきた国際秩序が乱れ、周辺のカリブ海の国々が沈めば、米政府は温暖化を否認し続けることはできなくなる。

温暖化の影響を最も受けやすい島国は、国土面積の縮小をなすすべもなく見ているしかない。そうした国々の運命を決めるのは、欧米やアジアの工業大国における化石燃料の消費量と、化石燃料の生産・輸出に依存した米、ロシア、サウジアラビアなどの経済構造だ。

大国が化石燃料の使用制限に踏み切らないのには各国なりの理由がある。だがそれによって、小国に与える気候変動は圧倒的な暴力でしかない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

10月の全国消費者物価、電気補助金などで2カ月連続

ビジネス

欧州新車販売、10月は前年比横ばい EV移行加速=

ビジネス

ドイツ経済、企業倒産と債務リスクが上昇=連銀報告書

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中