米空港の安全を守るワンコ、垂れ耳が求められるワケとは
とはいえ、TSAの主張には科学的な根拠があるらしい。
1959年に当時ソビエト連邦だったロシアのシベリアで、生物学者のドミトリ・ベリャーエフ博士が開始し、現在も継続されている研究がある。野生のギンギツネ(キツネはイヌ科に属する)から、「落ち着いた性格で人懐こい」という特徴を持った個体だけを選んで繁殖し続けるというものだ。5世代目くらいになるとギンギツネの家畜化が進み、犬のように尻尾を振ったり人の手を舐めるという行動を取るようになった。さらに、10世代目くらいになると今度は耳が垂れてきたという。
この研究に関して書籍『How to Tame a Fox (and Build a Dog)』(キツネを手なずけ犬にする方法)(シカゴ大学出版)を書いた米ルイビル大学の進化生物学者リー・ダガトキン博士はニューヨーク・タイムズに対し、性格がもの静かで人懐こい動物は、軟骨などの細胞を生育させる幹細胞の一種、神経堤細胞が少ないことが分かったと説明した。これが耳に現れると、軟骨が少ないために耳が立ち上がらなくなるのだという。
ただし、TSA側は、立ち耳の犬を今後一切採用しない、というわけではないと説明する。TSAが犬を採用する際に注目する点は、健康、異臭を察知する能力、そして社交性の3点で、耳の形状よりもこうした特徴が優先されるという。TSAの広報担当者はワシントン・イグザミナーに対し、耳の形状を考慮するというのはあくまでも非公式な決定で、正式な書類があるわけではない、と説明している。