「平和統一」か「武力統一」か:習近平「台湾同胞に告ぐ書」40周年記念講話
平和統一できなければ武力統一をすることが「アジアの安定」なのか?
現在の中国との「日中友好」を強化することは即ち、中国による言論弾圧を承認し、台湾に対していざとなったら「反国家分裂法」を適用することに賛同することを意味する。
そんな日本でいいのだろうか?
平和統一したところで、香港のように民主が殺されていくことに変わりはない。
日本は中国共産党に迎合するのか?
1948年、長春が食糧封鎖されて無辜の民が次々に餓死していったときに、毛沢東は「長春を死城たらしめよ」と言った。
その言葉と「反国家分裂法」は同一線上にある。
そして「日中友好」を叫ぶ安倍内閣のメッセージは、筆者にとっては毛沢東が長春食糧封鎖の時に言った言葉と重なるのである。
筆者はおそらく「長春食糧封鎖」を体験した生存者の中で、唯一の発信を続けている者かもしれない。数十万人の餓死者の中には筆者の家族もおり、その魂の叫びをこの世に残していかなければならないという使命感だけが執筆活動を支えている。そのためにこそ、老体にムチ打ちながら、日々コラムを書き続けているのである。
前掲の習近平の講話の中に「中国人不打中国人」(中国人は中国人と戦わない=中国人は中国人を殺さない)とあるが、「嘘をつけ!」と言いたい。長春で数十万の中国の無辜の民を餓死させたのは、中国人である中国共産党軍ではないか。1989年6月4日の天安門事件でも、「人民の軍隊」とされている「中国人民解放軍」が、民主を叫ぶ丸腰の若者たちに発砲し、戦車でひき殺した。
おまけに長春包囲戦の生存者も、天安門事件の犠牲者の母親たちも、その事件を「事実として認めるべきだ」と言っただけで、犯罪者扱いされるのだ。毛沢東に至っては数千万人の中国人を殺している。何が「中国人不打中国人」だ。中国共産党は「嘘」と「野望」で塗り固められている。
このような習近平に日中友好を誓い「協力を強化する」と誓った安倍首相は、本気で日本の国益を守ろうとしているのだろうか。
「100%、ドナルドと共にいる」とトランプ大統領に誓ったのなら、トランプのように中国に徹底して圧力をかける側に回るべきだろう。
1月5日、台湾の蔡英文総統は外国人記者を前に、アメリカや日本に「どうか助けてくれ」と悲痛な叫びを寄せている。安倍首相に、その叫びに手を差し伸べる勇気があるだろうか?
手を差し伸べれば、習近平の今年の訪日はすっ飛ぶだろう。
差し伸べなければ、日本は台湾を再度見捨てて、中国共産党側に迎合することになる。
どっちを選ぶのか、注視したい。
なお、長春の食糧封鎖に関しては体験記『チャーズ 中国建国の残火』で詳述し、中国共産党が如何に歴史を捏造して中国共産党を正当化しているかに関しては『毛沢東 日本軍と共謀した男』に書いた。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。