二重国籍者はどの国が保護すべきか?──国籍という不条理(2)
こういった難問が起こるのは、国家には人的組織であると同時に領域的組織でもあるという二面性があるためである。国家・領土・国民の三者がすっきりと一貫しているのが、国民国家の標準的なモデルだ。しかし、三者の間には日本も含めて現実にはズレがあるのが普通だ。
しかもそのズレは今後大きくなりそうである。そうなると国家は誰のものなのか。国家は誰に対して責任を持つのか。この問題は、民主的な福祉国家の場合にとりわけ鋭く問われざるを得ない。
しかも国家を構成するのは、現世代だけではない。国家が長期にわたって継続する制度であるためには、過去を共有すること以上に、未来世代への責任感を共有することが必要だ。年金制度も自然環境も、次の世代とのつながりがなければ、維持できないのだから。
※第2回:国籍が国際問題になり得るのはなぜか──国籍という不条理(3)
※第1回:国籍売ります──国籍という不条理(1)
田所昌幸(Masayuki Tadokoro)
1956年生まれ。京都大学大学院法学研究科中退。姫路獨協大学法学部教授、防衛大学校教授などを経て現職。専門は国際政治学。著書に『「アメリカ」を超えたドル』(中央公論新社、サントリー学芸賞)、『ロイヤル・ネイヴィーとパクス・ブリタニカ』(編著、有斐閣)など。
『アステイオン89』
特集「国籍選択の逆説」
公益財団法人サントリー文化財団
アステイオン編集委員会 編
CCCメディアハウス
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