最新記事

中東

イエメン停戦合意後も、なおくすぶる火種

Is Yemen’s Torment Finally Ending

2018年12月25日(火)15時10分
コラム・リンチ (フォーリン・ポリシー誌外交問題担当)

人道支援団体などは今回の合意を歓迎しつつも、なお慎重な姿勢を崩していない。

「合意内容を両者が遵守すれば大きな前進になるが」と、イエメンで救援活動を行うノルウェー難民評議会のジョエル・チャーニーは言う。「こうした合意はこれまで、幾度となく履行されずに終わってきた」

国連によると、イエメンでは人口の3分の2を超える約2000万もの人々が深刻な食料危機にあり、1000万人以上が食事を得る当てもない状況に置かれている。

ホデイダ港はイエメンで最も重要な中継貿易港であり、食料や燃料から工業製品に至るまで、イエメンに入ってくる貨物の80%以上がここで陸揚げされる。

今回の合意は国連の外交努力のたまものだ。和平協議を仲介したのは、イエメン担当特使のマーチン・グリフィスだった。グテレスも両者の合意を「真の前進」と歓迎し、合意内容の履行を支援していく考えを示した。しかし、まだ解決すべき「懸案事項」が残っているとして、慎重な姿勢を崩さなかった。なお次回の和平協議は来年1月に予定されている。

「国連はホデイダ港の管理に積極的に関与する」と、グテレスは約束した。「これで人道支援のルートが確保され、物資が順調に届くようになる」

「組織の存亡を懸け」戦う

ホーシー派と暫定政府、サウジ主導の有志連合軍と並び、アメリカもまた内戦の当事国として無関係でいられない。サウジアラビアの主要な同盟国として、サウジ空軍への燃料補給や助言などといった軍事的な後方支援を続けてきた。

この状況をめぐり、政府と米議会の対立も激化していった。議会からは、サウジ主導の戦闘がイエメンの一般国民をひどく苦しめているとして、それにアメリカが加担することは道義的に許されるのかという疑問の声が上がっている。一方、ドナルド・トランプ米大統領と安全保障担当の顧問たちは、危機の時こそ大切な同盟国を支援することが重要だと力説する。

双方の溝は、サウジの関与が疑われるカショギ殺害事件を受けて深まるばかりだ。米議会では、サウジに軍事介入の停止と和平への関与を求める圧力が高まっている。

しかしイエメン情勢の専門家たちによると、当事者の間では戦闘終結に向けた機運が高まっているとは言えない。

イエメン情勢に詳しいアメリカ人研究者で、対イエメン制裁の履行を監視する国連の専門家パネルに加わったこともあるグレゴリー・ジョンセンは、「戦闘の当事者にとっては、和解よりも戦争のほうが簡単だ」と指摘する。

サウジ軍の攻撃は主として空爆だから、サウジ側に死者は出ていない。一方のホーシー派は「組織の存亡を懸けて」戦い抜く覚悟であり、サウジの軍事介入さえなくなれば内戦に勝利できると信じている。

「ホーシー派の幹部は食料や医薬品不足の影響をほとんど受けていない」とジョンセンは言う。「空爆の標的にもなっていない。命の代償を払っているのは一般のイエメン人だ」

From Foreign Policy Magazine

<本誌2018年12月25日号掲載>


※12月25日号(12月18日発売)は「中国発グローバルアプリ TikTokの衝撃」特集。あなたの知らない急成長動画SNS「TikTok(ティックトック)」の仕組み・経済圏・危険性。なぜ中国から世界に広がったのか。なぜ10代・20代はハマるのか。中国、日本、タイ、アメリカでの取材から、その「衝撃」を解き明かす――。

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

韓国高官、大統領選前の米との関税交渉決着「理論的に

ビジネス

日産自の業績に下方圧力、米関税が収益性押し下げ=S

ビジネス

NEC、今期の減収増益予想 米関税の動向次第で上振

ビジネス

SMBC日興の1―3月期、26億円の最終赤字 欧州
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中