最新記事

国籍

在日韓国人になる

2018年12月27日(木)12時00分
林 晟一(評論家、高校教員)※アステイオン89より転載

くりかえすが、政治的権利を別にすれば在日と日本人の権利の差異は小さくなっている。移民研究者のクリスチャン・ヨプケは、「外国人が市民に近似してくると、外国人の権利は〔国民の〕シティズンシップを価値の薄いものへと現に変えてしまう」と指摘する(遠藤乾ほか訳『軽いシティズンシップ』岩波書店、二〇一三年、四八頁)。

とすれば、その価値の相対化に怒る排外主義者のターゲットとして在日が槍玉にあがるのは、まったくありがたくはないが目出度いことなのだろう。ジャイアンの権利や地位は絶対のはずなのに、あたかもジャイアン本人と瓜二つの権利をのび太が持っている。「のび太のくせに生意気だ!」との排外主義者の鬱憤の末路が、根拠なき「在日特権」だといえよう。日本人と在日の姿が似てきたことで、彼らは自己と他者の相違をことさら強調するようになった。特権とされる在日の通称名や特別永住権は歴史的事情にかんがみて公に設けられたもので、前者などは元来日本人の側も使用を推奨してきた。これらを特権と呼ぶのは、曲解の芸当でしかない。

在日の役割――死なないための歴史と未来

在日のイメージは内と外で正反対である。在日は自らを歴史の清算がすんでいないことによる犠牲者と考える傾向にあるが、排外主義者は不当な特権を持つ汚い奴らとみなす。

前者は自らと日本国民の権利が似かよってきたことを認めにくく、その地位を過小評価しがちである一方、後者は在日という異物の存在を過大評価し駆除しようとする。こうしたイメージはどちらも的はずれである。在日の数は「朝鮮」籍、韓国籍とも毎年減っており、在日に利権をむさぼられているとの言は当たらない(駆除対象の外来種というより、絶滅危惧種と想定するほうがまだ近いだろう)。

一方、たとえば多様なニューカマーの移民、ましてや外国人技能実習生に比しても、在日が勝ちとってきた社会的・経済的権利が充実しているのは事実だろう。では、日本の少数派の一先駆としての在日は、日本人やますます多様化する別の少数派たちとともに何ができるのか。韓国の歴史家林志弦(イムジヒヨン)は、「世襲的犠牲者意識」をナショナリズムと結びつけた韓国人が、虐げられた過去を「神聖化」し、日本人を「世襲的加害者」ととらえ続けることを批判する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=4日続伸、米中貿易摩擦の緩和期待で 

ビジネス

米中、関税協議巡り主張に食い違い 不確実性高まる

ワールド

ウクライナ、鉱物資源協定まだ署名せず トランプ氏「

ビジネス

中国人民銀総裁、米の「関税の乱用」を批判 世界金融
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中