最新記事

アフリカ

南アフリカで繰り返される「土地改革」による人種対立

2018年12月14日(金)17時00分
ロバート・バレンシア

ムガベ前政権下で土地を強制収用され困窮する白人の農場主 Dan Kitwood/GETTY IMAGES

<ジンバブエでかつて実行された農地強制収用――生産減少と白人農主の貧困化が隣国でも?>

ジンバブエのムガベ前政権下、黒人農民への再分配という「土地改革」を掲げ、白人農場主が立ち退きを強制されてから18年余り。白人農場主は収穫の減少を回復できずにいる。昨年11月には37年続いたムガベ政権が倒され、副大統領のムナンガグワが大統領に就任した。政権が代わっても、土地の強制収用に伴う経済損失の穴埋めを政府が行うとの望みは遠のくばかりだ。

「土地改革が盛んだった頃、農場主の平均年齢は55歳前後だった。今や大半が70歳を超え、もう働けない」と、商業農場主連合のベン・ギルピン代表は南アフリカのサンデー・タイムズ紙に語った。「補償の必要性は切実だが、悲しいことに受け取ることができずに亡くなったり困窮する例が多い」

土地改革が始まった00年だけで、農場主の少なくとも4500人が立ち退かされた。退役軍人を動員した強引な収用、そして今なお続く影響を思えば、1人7200ドル相当の補償が必要との声も上がる。

オレンジ農場主のベン・フリースは09年に立ち退きを強いられた。農場経営をやめ、今は土地の権利問題を専門とする運動家となっている。その年には農場主に補償金が提示されたが、ごく少額でしかも貨幣価値の低いジンバブエ・ドルだった。「私たちは被った損失に見合った補償を望んでいる。提示額はあまりにひど過ぎた」

それでも、200人近くが補償金を受け取った。ギルピンによれば、09年以来、土地の対価とは別に、収用後の貧困化や深刻な健康悪化を理由として政府に補償を求める元農場主のグループも現れたという。

ムナンガグワは任期切れに伴う今年7月の大統領選で、「白人から土地を強制収用しない」方針を示した。それは白人の農地を黒人に再配分する土地改革路線からの決別を意味した。

過去の清算は程遠く

白人有権者はムナンガグワの公約を歓迎した。だがその実現性は疑わしい。ギルピンによれば、ムナンガグワ政権は補償金として総額5300万ドルを用意するという。そこからは収用に遭った農場主のことを忘れていないという政治的メッセージが読み取れるが、農場主にとって十分な額ではない。だが国庫はムガベ時代と同じく枯渇しており、補償額を今後引き上げる可能性は乏しい。

ジンバブエだけでなく、農地再配分問題は南アでも人種間の対立に火を付けている。政権与党アフリカ民族会議(ANC)は国民に富の再配分を約束。だが米ワシントン・ポスト紙によると、その手段の1つは政府が補償金なしに土地を強制収用できる憲法修正。対象となっている豊かな農場の所有者は依然として白人だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

2月完全失業率は2.4%に改善、有効求人倍率1.2

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア

ビジネス

アーム設計のデータセンター用CPU、年末にシェア5

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中