イギリスで空前の倉庫争奪戦 EU離脱の混乱備え企業が在庫積み増し
根強い需要
イングランド銀行(英中銀)によると、最大1カ月の物流混乱に対する備えは、中小企業よりも大企業のほうが進んでいる。
離脱影響が一段落するまでに必要とみられる6カ月から1年程度の倉庫スペースを企業は求めている。通常の5年契約よりずっと短い。
スペースの種類も変化している。通常であれば、必要に応じて部品等を取り出せる棚付きのスペースを求めるが、現在は、棚を外して、完成品をまとめて床から積み上げたいという需要が多いという。
英国の最大手物資管理会社ウィンカントンのエイドリアン・コルマン最高経営責任者(CEO)によると、完成品やスペア部品、梱包材も含めた原材料など保管するための追加保管スペースについての顧客からの問い合わせは、3カ月ほど前から増え始めたという。
国内に185万平方メートルに上る倉庫スペースを所有する同社だが、コルマンCEOは、これほど一斉に製造会社が保管場所の確保に動く事態は、これまで経験したことがないと話す「企業は、破産しない範囲でできることは何でもやっている」という。
オンライン倉庫検索サイト「ストウガ」の責任者チャーリー・プール氏は、英国全体でみれば十分な倉庫スペースがあると話す。ただ必ずしも必要な場所にあるわけではないため、企業側にはコスト上昇要因になっているという。
「態度を決めかねている企業のコストは上昇する。欲しい場所に倉庫を見つけられないかもしれないが、賃料は上昇している」と、プール氏は言う。
ストウガによると、国内倉庫の平均賃料は、9月はパレット1つ当たり週1.85ポンド(約265円)だったが、現在では同2ポンドを超えた。ロンドンではそれよりずっと高い。これまでストウガの顧客は中小企業が中心だったが、先月は大企業との取引が増えた。
保管スペースに対する需要急増は、メイ英首相の離脱案に反対する世論のうねりを受けて起きたものだが、クリスマス商戦の時期にも重なった。
前出したミニクリッパーが所有するある倉庫の稼働率は、先月99.9%に達した。軒先約15メートルの高さまでエアコンやスポーツ用品、化粧品や健康食品のパレットが積み上がっている。
ほとんどがクリスマスには搬出されるが、その後にはブレグジットに備えた在庫が搬入を待っている。
企業は通常1社しか物資管理会社を使わないが、現在はスペースを求めてさまざまな業者に連絡を入れている、とマスターズ氏は言う。「新規取引の問い合わせがこんなに来たのは初めてだ」