最新記事

東京五輪を襲う中国ダークウェブ

五輪を襲う中国からのサイバー攻撃は、既に始まっている

CYBER ATTACKS ON TOKYO 2020

2018年11月21日(水)11時30分
山田敏弘(国際ジャーナリスト、マサチューセッツ工科大学〔MIT〕元安全保障フェロー)

ILLUSTRATION BY ALLEXXANDAR-ISTOCKPHOTO

<インターネットの奥深く、ダークウェブで2020年東京五輪への攻撃作戦を開始した中国ハッカーたち。何が狙いなのか。どんな実力を持っているのか(前編)>

※記事の後編はこちら:東京五輪を狙う中国サイバー攻撃、驚愕の実態を暴く



※11月27日号(11月20日発売)は「東京五輪を襲う中国ダークウェブ」特集。無防備な日本を狙う中国のサイバー攻撃が、ネットの奥深くで既に始まっている。彼らの「五輪ハッキング計画」の狙いから、中国政府のサイバー戦術の変化、ロシアのサイバー犯罪ビジネスまで、日本に忍び寄る危機をレポート。
(この記事は本誌「東京五輪を襲う中国ダークウェブ」特集の1記事「五輪を襲う中国サイバー攻撃」の前編です)

2018年9月、日本とアメリカに在住する日本人17万4000人に、ある電子メールが届いた。件名は「東京2020ゲーム無料チケットとギフト」で、本文はこう続く

「挨拶東京ゲーム愛好家

私は、以下のリンクを使用して登録することで、家族や友人に無料のチケットを提供することを夢見ています。

(中略)あなたの個人情報と銀行を提供することにより、$600の賞を獲得する機会があります(原文まま)」

このあまりに下手な日本語で書かれたメールは、スポーツに興味がある個人や、メディアやスポーツ企業に関係する人たちを狙った「スピアフィッシング・メール」と呼ばれるサイバー攻撃だった。特定の人物に偽のメールを送り、リンクなどをクリックさせることで、パスワードや個人情報などを詐取する。知らないうちにパソコンが乗っ取られてしまうケースも多い。

サイバーセキュリティーの重要性が語られる昨今、こんな怪しいメールをクリックしてしまう人がいるはずはないと思うかもしれない。だが現実には、17万4000人のうち、実に9258人がリンクをクリックした。そして、まんまとこの攻撃の餌食になり、事実上パソコンを乗っ取られた。

これ以降、同様のメールはほかでも確認されている。この一連の工作は、中国政府系ハッカーによるサイバー攻撃キャンペーンの一環だった。

今、中国政府系ハッカーたちが日本に対するサイバー攻撃を活発化させている。彼らがこのキャンペーンで狙っている標的は、2020年に迫った東京オリンピック・パラリンピックだ。

彼らはなぜ東京五輪を攻撃しようとしているのか。ヒントは、世界中の悪意あるハッカーが巣くうダークウェブ(闇ウェブ)にある。ダークウェブ内でハッカーの動向やコミュニケーションを探れば、彼らの思惑が見えてくる。

ダークウェブとは、グーグル検索などではたどり着けない特殊なウェブ空間を指す。最近日本でも今年の流行語大賞候補に選ばれるほど知られるようになったが、そこへアクセスするには、インターネットを匿名で利用できる特殊なソフトを使う必要がある。またダークウェブの奥深くには、世界中のハッカーがうごめく「フォーラム」と呼ばれるコミュニティーが存在する。政府系ハッカーたちが出入りして情報交換をしているのはそんな闇のフォーラムだ。

magSR181121-chart1b.png

本誌21ページより

今年初め、このフォーラムで東京五輪への攻撃の兆候が確認された。

今年1月に話を聞いたサイバーセキュリティー企業に協力する外国人ハッカーは、ダークウェブでは「東京五輪に絡んだサイバー攻撃が話題になっている」と語った。実際に金融機関や流通分野に対する攻撃が既に実施されており、五輪で使われそうな支払い処理システムのソースコード(ソフトの設計図)がまるまる盗み出されたケースも確認されていた。

「ボット調査員」を送り込む

インターネットのインテリジェンスを調査・解析するアントゥイット社サイファーマ事業のクマー・リテッシュCEOは、「五輪への本格的な攻撃がシステマチックに始まったのは今年の夏」と言う。「これまでの五輪やスポーツイベント同様、開催の2年前から工作が始まった」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中