最新記事

東京五輪を襲う中国ダークウェブ

サイバー民兵が1000万人超 中国で加速する「軍民協力」の実態

CHINA’S CYBER MILITIAS

2018年11月22日(木)16時10分
ニコラス・ライアル(オーストラリア国立大学研究員)

愛国ハッカーの暴走が不安

民間の力を活用すると同時に、民兵たちの不規則な行動を抑制する──その重要な役割を担うのが人民解放軍の「戦略支援部隊」だ。軍の宇宙関連、サイバー関連、情報・監視・偵察関連の部門を集約して2015年末に設立された組織である。

戦略支援部隊の発足に当たり、習が強調したことが2つあった。1つは、同部隊が人民解放軍の近代的な戦闘能力強化の重要な担い手になるということ。そしてもう1つは、同部隊の主要な任務の1つが軍民統合の推進だということだった。

このメッセージから見えてくるのは、中国政府がサイバー領域での軍民協力を重んじていくという方針だ。戦略支援部隊は軍内部の多くの研究施設を監督下に置き、民間と連携して研究開発に取り組んでいる。

中国のサイバー民兵の中で最もよく知られているのは、「愛国ハッカー」と呼ばれる人たちだろう。この種のハッカーたちは、国家の敵にダメージを与える上では有効な攻撃を行う場合もあるが、しばしば当局のコントロールが利かず、無鉄砲で荒っぽい行動を取り過ぎる。

愛国ハッカーはたいてい、草の根の大衆的なナショナリズムに突き動かされて行動する。その典型が2001年の海南島事件だ。この年の4月、中国の海南島近くの南シナ海上空でアメリカと中国の軍用機が空中衝突し、米中の関係が緊迫化したとき、中国人ハッカーたちはアメリカに対して一斉に攻撃を仕掛けた。

このような行動は、緻密な計算の下で国民のナショナリズムを動かそうとする中国政府にとって邪魔になる場合が少なくない。そこで、政府は戦略支援部隊のような機関に民間ハッカーたちを取り込むようになった。

しかし、ハッカーたちを国の機関に正式に取り込むことにはリスクが付いて回る。ハッカーの犯行が他国に露見した場合に、政府と人民解放軍が無関係だと主張しても説得力がなくなる。

アメリカ政府は、サイバー空間におけるハッカー攻撃の「犯人」を突き止める能力を向上させており、それに基づいて中国の有力な国有企業を制裁対象にし始めている。そのため中国政府は、ハッカーたちの行動をいっそう厳しく管理するようになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中