最新記事

環境

アジアの廃食用油、厄介なゴミから引っ張りだこの資源へ 欧州でバイオ燃料の原料に

2018年10月18日(木)10時25分

クアラルンプール近郊で6日、廃油回収会社ファットホープ・エナジーの収集センターに到着した廃食用油の収集車(2018年 ロイター/Emily Chow)

アジアで揚げ物などに広く使われる食用油は、かつては使い終わると密かに排水溝に捨てられていた。しかし環境規制の強化を追い風に欧州では一躍、最も需要の強いバイオ燃料原料となり、アジアでの扱いも変わりつつある。

マレーシアのクアラルンプールで廃食用油回収業に従事するアミズリ・アブドゥラさんは、仕事がどんどん多忙になっていると話す。「この作業を始めた1年前は1日に回る回収先は15カ所か16カ所だった。今は25カ所くらいで、問い合わせも増えている」という。

回収された廃食用油は集荷センターに集められ、食品の残りかすを濾すなどの処理を施された後、欧州に向けて輸出される。

廃油回収会社ファットホープ・エナジーのビネシュ・シンハ最高経営責任者(CEO)によると、同社の欧州石油大手向けの廃原料輸出はこの3年間で40%増加し、欧州の廃原料需要は2030年までに3倍に増える見通しだ。

ファットホープはコーヒーの豆かすや動物の油脂、パーム油の搾りかすなども回収するが、廃食用油が大半を占める。「欧州連合(EU)の環境政策を見込んで、買い手の顧客は原材料の確保に悪戦苦闘している」という。

アジアの廃食用油業界の規模は数年前には推計5億ドル程度だった。しかしアナリストによると、その後に回収業者や取引業者が急増したため、最近の市場規模はつかみきれていない。

コンサルタント会社STINグループのジャスティン・ユアンCEOによると、今年の中国からの出荷は30万トンと、昨年の20万トンから大幅に増える見込み。ほとんどが欧州向けで、出荷量は今後数年増え続けそうだという。

ユアン氏は「海外では中国の廃食用油を原料とするバイオ燃料工場が増えるだろう。廃食用油は国内外で需要が高まり、供給が逼迫する見通しだ。競争は激しくなるだろう」と述べた。

実際にアジア地域で廃油は粗パーム油に対するプレミアムが2年ほど前と比べて2倍に膨らみ、既に供給不足に陥っている。トレーダーによると、現在の価格はトン当たり平均600─700ドル前後だ。

廃食用油の需要増は飲食店や回収業者にとっても朗報で、こうした業界では廃食用油が1キロあたり40セント程度で取引されている。

回収業者は欧州での需要に応じるために廃食用油を確保しようと躍起になっている。

EUは6月、再生可能エネルギーのシェア拡大策の一環として、2030年から新鮮な粗植物油を使った輸送燃料の製造を段階的に停止し、廃食用油に切り替えることで合意した。

フランスのエネルギー大手トタルは5月、同国南部にある処理能力65万トンの新設のバイオ燃料製油所で廃原料の比率を30─40%にすると発表。英バイオ燃料供給会社グリーンエナジーは7月に、廃油のバイオ燃料化のためにアムステルダムの植物油加工工場を買収した。

仕事がますます忙しくなりそうなアミズリさんは、「捨てるんじゃなくて、集めて売る。価値があるんだ」と述べた。

(Emily Chow記者)

[クアラルンプール 10日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 トランプショック
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月22日号(4月15日発売)は「トランプショック」特集。関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 少なくとも43人死

ワールド

ウクライナ、中国企業3社を制裁リストに追加 ミサイ

ワールド

米政権、アリゾナ州銅鉱巡る土地交換承認へ 先住民反

ワールド

中国とカンボジア、供給網構築で協力 運河事業の協定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 10
    トランプに弱腰の民主党で、怒れる若手が仕掛ける現…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中