芸能界に続いてインターポール、中国でいま何が起きているのか
長い説明を必要とするので、結果だけを書くならば実は中国はインターポールに訴えて、郭文貴を国際指名手配していた。だからVOAの放映を中断させる権限があると主張した。しかし実はインターポールのホームページには郭文貴指名手配情報が載っていない。インターポールは、前述の「キツネ狩り」を手伝う仕事をやっている国際機関であるはずで、中国は郭文貴のように中国政府指導層の機密情報を持っている者が海外でそれを暴露しないように、インターポール総裁に中国人を置くためにインターポールに巨額の分担金(毎年6000万ドル、年々増額)を支払ってきた。しかしインターポールが非協力的になってきたので、中国は中国独自の「紅色指名手配」という名目で、国際手配をしている。しかしこれは犯人の身柄引き渡しの約束がある国との間でないと通用しない。
実はこの時点で、孟宏偉を中国に呼び戻すべきだった。しかしそれをすれば、もう二度とインターポール総裁に中国人を置くチャンスはなくなるだろう。習近平の心は揺れていたにちがいない。
ここまで状況が迫れば、孟宏偉も観念していただろう。だから9月末の、公安部からの「帰国せよ」という命令に従った。空港に着くなり、連行されたわけだ。奥さんの携帯に送った刃物の絵文字は、覚悟していた証拠と判断される。
周永康の流毒
10月7日、中共中央紀律検査委員会のホームページに、「孟宏偉はいま収賄などの違法行為に関して国家監察委員会の取り調べを受けている」という文字が踊った。同時に孟宏偉が既にインターポールに辞表を提出したという情報も発表された。
そして10月8日、公安部は孟宏偉を収賄容疑で取り調べ中であることを認めるとともに、「周永康の流毒の影響を徹底して粛清しなければならない」とも述べている。
この「流毒」というのは、こういうことだ。
一般に大物腐敗官僚がいると、その部下は腐敗をしないと睨まれる。いつか上司を告発する可能性があると疑うからだ。そこで部下は、必ずしも腐敗に手を染めたいとは思わない場合でも、上司に倣って腐敗に手を染め、それを周りに伝染させて行き、一つのグループができ上がるのだ。
「毒」はこうして広がり、仲間を増やして「流れて」いく。
これを中国では「流毒」と表現する。
ある裁判官が、どうしてもこの流れに乗るのを潔しとせず辞職してこのカラクリを公表したことも、「流毒」の実態を明らかにする一助になっている。
インターポールの総裁をターゲットにしたのは、習近平がメリットよりディメリットの方が大きいと判断したからだろう。
「国家監察委員会」の立場からすれば、「デビュー作」としては、十分に派手で全世界に話題を振りまき、「ヒット作」だったと位置づけていることだろう。
この事件を、権力闘争だとか「政敵、周永康」などという視点から分析するのは適切ではない。
(本の執筆に専念していたため、しばらくコラムをお休みにしていました。申し訳ありませんでした。)
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。