最新記事

中国

芸能界に続いてインターポール、中国でいま何が起きているのか

2018年10月11日(木)12時40分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

長い説明を必要とするので、結果だけを書くならば実は中国はインターポールに訴えて、郭文貴を国際指名手配していた。だからVOAの放映を中断させる権限があると主張した。しかし実はインターポールのホームページには郭文貴指名手配情報が載っていない。インターポールは、前述の「キツネ狩り」を手伝う仕事をやっている国際機関であるはずで、中国は郭文貴のように中国政府指導層の機密情報を持っている者が海外でそれを暴露しないように、インターポール総裁に中国人を置くためにインターポールに巨額の分担金(毎年6000万ドル、年々増額)を支払ってきた。しかしインターポールが非協力的になってきたので、中国は中国独自の「紅色指名手配」という名目で、国際手配をしている。しかしこれは犯人の身柄引き渡しの約束がある国との間でないと通用しない。

実はこの時点で、孟宏偉を中国に呼び戻すべきだった。しかしそれをすれば、もう二度とインターポール総裁に中国人を置くチャンスはなくなるだろう。習近平の心は揺れていたにちがいない。

ここまで状況が迫れば、孟宏偉も観念していただろう。だから9月末の、公安部からの「帰国せよ」という命令に従った。空港に着くなり、連行されたわけだ。奥さんの携帯に送った刃物の絵文字は、覚悟していた証拠と判断される。

周永康の流毒

10月7日、中共中央紀律検査委員会のホームページに、「孟宏偉はいま収賄などの違法行為に関して国家監察委員会の取り調べを受けている」という文字が踊った。同時に孟宏偉が既にインターポールに辞表を提出したという情報も発表された。

そして10月8日、公安部は孟宏偉を収賄容疑で取り調べ中であることを認めるとともに、「周永康の流毒の影響を徹底して粛清しなければならない」とも述べている。

この「流毒」というのは、こういうことだ。

一般に大物腐敗官僚がいると、その部下は腐敗をしないと睨まれる。いつか上司を告発する可能性があると疑うからだ。そこで部下は、必ずしも腐敗に手を染めたいとは思わない場合でも、上司に倣って腐敗に手を染め、それを周りに伝染させて行き、一つのグループができ上がるのだ。

「毒」はこうして広がり、仲間を増やして「流れて」いく。

これを中国では「流毒」と表現する。

ある裁判官が、どうしてもこの流れに乗るのを潔しとせず辞職してこのカラクリを公表したことも、「流毒」の実態を明らかにする一助になっている。

インターポールの総裁をターゲットにしたのは、習近平がメリットよりディメリットの方が大きいと判断したからだろう。

「国家監察委員会」の立場からすれば、「デビュー作」としては、十分に派手で全世界に話題を振りまき、「ヒット作」だったと位置づけていることだろう。

この事件を、権力闘争だとか「政敵、周永康」などという視点から分析するのは適切ではない。

(本の執筆に専念していたため、しばらくコラムをお休みにしていました。申し訳ありませんでした。)


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏への量刑言い渡し延期、米NY地裁 不倫口

ビジネス

スイス中銀、物価安定目標の維持が今後も最重要課題=

ワールド

北朝鮮のロシア産石油輸入量、国連の制限を超過 衛星

ワールド

COP29議長国、年間2500億ドルの先進国拠出を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中