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芸能界に続いてインターポール、中国でいま何が起きているのか

2018年10月11日(木)12時40分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

それらの下部組織は許認可権を持ち、映画製作会社やテレビドラマ制作会社の関係者と直接接触をする。そこには「お願い、これで認可して下さいよ」といった形で膨大な賄賂が発生してきたのである。

そこで方案では、これら下部組織をすべて撤廃して、映画だろうとテレビだろうと、新聞ラジオだろうと、すべて中宣部の「直轄」にしたのだ。

3月2日に、中共中央の議決として発表され、3月5日から開催された全人代(全国人民代表大会)でも、政府関連部分に関して審議し議決した(3月13日)。

となれば、新しく設置あるいは変更された部局は、何か「大きな仕事」を「派手に」やらなければならない。

ファン・ビンビンの場合

時系列から言って、まずはファン・ビンビンの話から始めよう。事件の内容は広く報道されているので重複を避け、中共中央と中国政府との関わりにおいてのみ、ご説明したい。

方案では、中宣部が芸能界を直轄することになった。しかしこれまで、あの大々的な反腐敗運動においてさえ、芸能界にだけはメスが入っていなかった。なぜなら、たとえば映画スターは中共のプロパガンダのための道具だからだ。映画自身には政治色を入れず、世界中のより多くの人に「中国映画って素晴らしい」から「中国って素晴らしい」と思ってもらえるように変わってもらえれば、中宣部の目的は果たせる。その道具(俳優、女優)が腐敗で汚れていては党の宣伝にならない。逆効果だ。

しかしいつまでも芸能界だけを聖域として残しておくわけにはいかない。そこで中宣部は芸能界にメスを入れる最初の人物としてファン・ビンビンを選んだのである。

その証拠に、9月2日に中国社会科学院と北京師範大学の共同執筆という形で『中国影視明星社会責任報告』を出版している。そこには100人の芸能人に対する評価とランキングがあり、ファン・ビンビンは最下位で「0点」だった。

中国社会科学院というのは中国政府のシンクタンクだ。中共中央あるいは政府から命令があれば、直ちに作業に着手する。9月2日に出版したということは、少なくとも4カ月か5カ月前に調査と執筆に着手していないとならないことになる。調査・執筆に最低2カ月はかかるだろう。ゲラの校正などにも1か月は掛かる。そして印刷と製本に3週間ほど。

となると、中宣部からの指示は4月か、どんなに遅くとも5月に出ていなければならないわけだ。3月に直轄となり、どうするかを協議して4月に中国社会科学院に指示を出していれば、9月2日の報告書には間に合うだろう。

中国版ツイッターのウェイボーでファン・ビンビンの脱税などが暴露されたのが5月末。「やらせ」だとした場合、中共中央は「人民の声に耳を傾けた」ことになる。

いずれにしても、中宣部の指示で中国社会科学院が動いたことはまちがいない。

北京師範大学が共同執筆したのは、いろいろな内部事情があって「仲がいい」からだ。筆者は90年代半ばから2000年代初期にかけて中国社会科学院社会学研究所の客員教授だったので、この動き方を知っている。

ファン・ビンビン事件は、中宣部が直轄することになった芸能界に対して、最初に「ほら、やりましたよ」と見せるための、「派手な実績」の一つだったのである。 習近平政権が反腐敗の手を緩めていない証しにもなったと、中国は思っているだろう。

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