日米合意の新たな通商協議は一時しのぎ? 貿易不均衡に万能薬なし
9月27日、日米両国が新たな通商協議の開始で合意したことで、貿易不均衡を巡る同盟国間の全面対決は差し当たり回避された。だが、どのようなディールに至ったとしても、トランプ大統領を激怒させている米国貿易赤字の削減には、ほとんど役に立たないだろう。写真は握手する安倍首相とトランプ米大統領。NYで26日撮影(2018年 ロイター/Carlos Barria)
日米両国が新たな通商協議の開始で合意したことで、貿易不均衡を巡る同盟国間の全面対決は差し当たり回避された。だが、どのようなディールに至ったとしても、トランプ大統領を激怒させている米国貿易赤字の削減には、ほとんど役に立たないだろう。
今回、締結に向けて協議が行われることとなった新たな日米物品貿易協定(TAG)以前にも、日本の市場開放を狙った2国間交渉はこれまでも行われてきた。1981─1994年の輸出自主規制など、日本の対米輸出を抑制する目的で実施されたこともある。
これまでの交渉の結果、日本はすでに外国製品に対する多くの正式な障壁を取り除いており、大きな影響をもたらすような措置を講じる余地はほとんど残されていない。
新協定名の意味
安倍晋三首相は、この新たな通商枠組みとなるTAGについて、投資・サービス分野を含む広範囲な自由貿易協定(FTA)とは「まったく異なる」と述べた。ただし共同声明は、対象分野の1つとしてサービスを挙げている。
安倍首相のスタンスは主に国内消費に向けられており、これまでもFTA交渉は行わないと明言している。
また、今回の合意では、農産物の輸入関税引き下げについては、環太平洋連携協定(TPP)など日本が参加する他の合意で決められた範囲内としている。トランプ大統領は昨年、TPP離脱を表明している。
ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、日本に対し完全なFTA締結を目指す考えを表明している。同協定には米議会の承認が必要となる。FTA締結となれば、トランプ大統領は日本を屈服させたと主張するかもしれない。
より大規模な米中不均衡
世界的な経済要因を考えると、そもそも2国間の貿易不均衡を重視することにほとんど意味がないと、多くのエコノミストは指摘する。
1980年代の市場志向型分野別(MOSS)協議や1990年代の日米構造協議(SII)など、日本と米国の間で行われてきた日本市場を開放させるための一連の交渉により、一部農産物に対して高関税をかけて保護していることを除けば、日本の市場障壁は比較的少なくなっている。
「米国企業が日本で抱える市場アクセス問題は、極めて小さい」と、資産運用会社ウィズダムツリー・ジャパンのイェスパー・コール最高経営責任者(CEO)は指摘。「大きな参入障壁はクリントン政権によって取り除かれた」
日本の対米黒字は昨年690億ドル(約7.8兆円)で、米国が抱える貿易赤字全体の1割にも満たない。1990年代初めのピーク時には6割近くを占めていた。現在は、中国が米貿易赤字の約46%を占めている。