独立運動家の逮捕相次ぐインドネシア 「最後の紛争地」パプアめぐり治安当局が厳重警戒
歴史的に根深いパプアでの対立
パプアは元々オランダの植民地でインドネシアが独立した後もオランダ領に留まり、オランダが植民地を放棄した1961年に独立するも直後にインドネシアが軍事介入し「西イリアン解放作戦」が展開。1969年に住民投票を実施したがインドネシア治安当局の「選挙妨害、操作という介入」で「インドネシア併合」となり、イリアンジャヤ州となったとされている。
インドネシアからの分離独立運動で治安部隊との武力衝突が続いた西端のアチェ州の石油、天然ガスと同じく、パプアは金銀銅の鉱山資源に恵まれていることがインドネシア政府にとって独立を断固阻止要因になっているといわれている。
スハルト長期独裁政権が崩壊する1998年まで外国人記者はアチェ、イリアンジャヤ(現在のパプア、西パプア)、そして東ティモールは特別な許可がなければ訪問できなかった。いずれも国軍による「軍事作戦地域(DOM)」に指定されていたからだ。
ところが、オーストラリアとの間の海底にある天然ガス資源以外に資源が少ない東ティモールは2002年に住民投票で念願の独立を獲得、インドネシアの支配から脱した。
一方、アチェの武装独立組織「自由アチェ運動(GAM)」は2004年12月のスマトラ島沖大地震・津波で甚大な被害を受けたことから、大幅な自治権とイスラム法導入を条件にインドネシアに留まることを選択している。
インドネシア最後の「紛争地」
こうして残ったパプアは現在も「自由パプア運動(OPM)」という武装組織が細々とではあるが、独立運動を継続している。これまでの紛争によるパプア人の犠牲者は約10万人といわれており、いわばパプアはインドネシアで最後に残った「独立紛争の地」であり、インドネシア政府、治安当局にとっては頭痛の種でもある。
ジョコ・ウィドド大統領は2015年にパプアを訪問して政治犯を釈放するとともに「過去を忘れ、人権侵害問題も忘れて共に前を見よう」と問題解決に向けた前向きの姿勢を明らかにした。
しかし、移民政策によってジャワ島などから流入するインドネシア人の増加、豊かな天然資源が地元にほとんど還元されない状況、社会的差別から起きる多数の失業者、また山間部などの遠隔地ではインフラ整備も遅れるなど、パプア人の不満は鬱積し続けているのが現状と言える。
インドネシア国家警察のティト・カルナフィアン長官も「パプア問題は特に山間部の開発の遅れ、経済状況の停滞、そして生活苦が根底にある」と述べて治安問題の根底に横たわる地域の経済問題の解決が急務との考えを示している。
ジョコ・ウィドド政権はパプア州、西パプア州の道路や航空路の整備、電気、水道という日常生活に直結するインフラ整備に力を入れてはいるものの、不満は解消されておらず、独立志向は若い学生を中心に広がっている。
2019年の大統領選、国会議員選に向けて社会的不安を意図的に高めようという動きへの懸念があるなか、そうした社会状況に乗じる形でパプアの独立運動が再燃しそうな気配がこのところ相次ぐ事件からはひしひしと漂ってきている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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