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「辺野古の海は、新法がなければ基地にはできない」木村草太教授インタビュー

2018年9月18日(火)15時30分
小暮聡子(本誌記者)

――埋め立てた後、その埋め立て地は誰の所有になるのか。

事業者が国なので、国の所有になる。

――国の所有になった後には、沖縄県はその土地に手を出せなくなるのか。

国が所有する土地について、国の所有権を尊重しなければならないのは当然だ。ただし、都市計画や環境規制など、沖縄県・名護市の行政権が及ぶ。

――国が埋め立てた場合も、沖縄県や名護市の行政権の対象になるのか。

沖縄県内、名護市内の土地なので、本来は、行政権の対象になる。

――埋め立てた土地を米軍に貸した後も、県や市の行政権が及ぶのか。

米軍基地には日米地位協定が適用されるので、県や市の行政権は大幅に制限される。

――木村教授は、基地問題に関しては沖縄県で住民投票を行わなければならないと主張している。

米軍基地にすると日米地位協定が適用されるので、その結果、その土地について沖縄県や名護市の自治権が排除されることになる。しかし憲法92条は、地方公共団体の組織・運営に関する事項を定めるのは「法律」だとしている。自治権をどのように制限するかも、地方公共団体の組織・運営に関する事項なので、自治権制限には法律の根拠が必要だろう。では、法律を決めるのは誰なのか。

――国会だ。

そうだ。憲法41条にあるとおり、法律を定めるのは国会だ。<第41条 国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。> 埋め立て地に名護市の権限が及ぶかどうかは第92条に「法律で定める」とあるので、例えば、それを内閣が政令で決めたら憲法92条違反だろう。

したがって、名護市の自治権が及ぶかどうかは、法律という形で決めなくてはならない。次に、「沖縄県および名護市は辺野古に自治権を行使してはならない」という法規範を定めるなら、それは沖縄県と名護市にしか適用されない。

憲法95条は、特定の地方公共団体にのみ適用される法律を制定するためには、住民投票が必要だと定めている。<第95条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。> 

――住民投票をしないで埋立を進めるのは憲法違反だ、と言えるか。

今述べたように、ある土地を米軍基地として、日米地位協定を適用するには、自治権制限の根拠となる法律が必要になる。辺野古の埋め立て地は、そのような根拠法が存在していない。そうすると、法律上は、埋め立てをしても、米軍基地として運用できないことになる。今回の埋め立ては、基地建設が目的なのだから、そのような埋め立ては合理的ではないだろう。

そうなると、公有水面埋立法の「埋め立ての合理性」の要件を満たさないので、埋め立て承認処分は公有水面埋立法に違反している、というのが私の主張だ。埋め立てても使えないのであれば、埋め立てることに合理性がない。<「公有水面埋立法 4条 1項 1号『国土利用上適正且合理的ナルコト』>

公有水面埋立法上の合理性の要件を満たすには、埋め立てた後に基地として使えないといけない。基地として使うためには、沖縄県と名護市の自治権を排除する法的根拠が必要だ。その法的根拠を整えるには、法律を作らなければならない。その法律を作った場合は特定の自治体に適用されるので、住民投票が必要だ。

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