中国がキャッシュレス社会を目指すのは百年早い
China Can’t Afford a Cashless Society
規制当局者や金融アナリストはこうした格差を憂慮しているが、アリババとテンセントは、キャッシュレス化をさらに日常的なものにする決意を固めている。中国企業は、自社製品を社会的に価値のあるものとして売り込むシリコンバレー企業の戦略や表現を真似ているのだ。
地方では、両社ともに資源を投入し、農村におけるモバイルバンキングの市場シェアを獲得しようとしている。ショッピングサイト淘宝網(タオパオ)と組んで収益を伸ばしたアリババは、中国農村部に電子商取引サービスセンターを建設するために、2014年から2019年末にかけて100億人民元を投じる予定だ。一方、テンセントは、出稼ぎ労働者を地方にいる家族に結びつける微信の使い方をアピールして、より多くのモバイル決済ユーザーを取り込もうとしている。
高齢者層も、キャッシュレス化促進キャンペーンの重要な対象だ。高齢ユーザーはモバイル機器の操作の習得に苦労する傾向があるため、アリババは子供たちが親や高齢者にアプリの使用を勧めることを、「親孝行」として奨励している。高齢ユーザーによるアリペイの利用を加速させるための最近の販促キャンペーンでは、モバイル決済の設定解説の導入に、子供が親に宛てた心のこもった手紙をもした真似した紹介文が使われた。
アリババとテンセントは、より多くのユーザーに奉仕する、という高尚な企業理念を打ち出すかもしれない。だが両社にとって、都市部のユーザーが両社のアプリで決済を行っている限り、アクセス格差は大きな問題ではない。
モバイル取引はいまだに大きく成長を続けている。だから低所得層や、テクノロジーにも銀行にも縁のないユーザーが参加しにくくても、両社にとってたいした損失にはならない。
だが中国人民銀行の支店にとっては、そうはいかない。消費支出と人民元の循環が減少すれば、各州の経済統計の数字が悪化し、最終的に国全体の経済の成長に悪影響を及ぼす。
中国企業のニーズと政府目標が衝突するときには、政府は勝つ傾向がある。それでも、キャッシュレス決済サービス企業は、投資とテクノロジーの魅力に突き動かされて、大儲けのチャンスをつかもうと努力し続けるだろう。
中国の個人、企業、地域はどうすれば、何もかもがキャッシュレスになる社会の到来に適応できるのか。それは、急成長する不平等なデジタル経済における生き残りを左右するだろう。
中国が国民に参加の機会を広げないままキャッシュレス化を進めれば、最終的には国内の経済的な不平等をさらに悪化させる可能性がある。そして大企業が繁栄する一方で、農村地域の人々は不満をいだいたまま置き去りにされるかもしれない。
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