最新記事

軍事

比ドゥテルテ、イスラエルで過去の暴言を謝罪 武器と石油が取り持つ「怪しい同盟」

2018年9月5日(水)13時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

「歓迎されざる客人」イスラエル紙が酷評

さて、今回のドゥテルテ大統領のイスラエル訪問について現地メディアはどう伝えたのだろう? 現地紙「ハアレーツ」(ヘブライ語と英語)は9月2日付け紙面の社説で「比大統領はイスラエルにとって歓迎されない客人だ」と手厳しく批判した。

批判の矛先は麻薬犯罪や組織犯罪への対処で超法規的殺人を容認するなど深刻な人権問題を抱えるドゥテルテ大統領と同時に、ヒトラーをかつて称賛した人物を歓迎するネタニヤフ政権にも向けられた。

ドゥテルテ大統領と会談したネタニヤフ首相は、第2次世界大戦後にフィリピンがユダヤ人難民を支援してくれたことやイスラエル建国に賛意を示してくれたことなどを挙げて「長年の良好な関係に加えここ数年は友好関係がさらに深まっている」と評価。ドゥテルテ大統領も「重要な支援に感謝する」と謝意を示した。

今回のイスラエル訪問の主な目的はイスラエルからの最新の武器調達と石油開発があるとされており、イスラエルからこれまでに狙撃銃や対戦車砲などを導入していることを踏まえて、さらなる武器供与を協議したものとみられている。

2016年にドゥテルテ大統領は「イスラエル以外からは武器を購入するな」と指示を出したこともあり、フィリピン軍や警察の装備にイスラエルは深く関わっている。

こうしたイスラエル政府のフィリピンへの姿勢に対し「ハアレーツ紙」は「人権侵害の疑いのある指導者との関係は怪しげな同盟関係である」と指摘した。

対パレスチナで国際社会がイスラエルに強硬姿勢を取る中、イスラエル寄りのフィリピンはネタニヤフ政権にとっては「良好な関係を維持したい国」であることから、ヒトラー発言などで物議をかもしたドゥテルテ大統領であっても歓迎せざるを得なかったとみられている。それだけに両国首脳のこうした思惑の一致を「怪しげな同盟」であるとした地元紙の社説は鋭い指摘と言えるかもしれない。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独ポルシェ、通期の業績予想引き下げ 第1四半期は中

ビジネス

HSBC、第1四半期は25%減益 関税巡る経済リス

ビジネス

ドイツ銀行、第1四半期は予想上回る39%増益 関税

ビジネス

独消費者信頼感、5月は改善 関税巡る不確実性なお重
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【クイズ】米俳優が激白した、バットマンを演じる上…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中