最新記事

スパイ

中国サイバー攻撃がCIAスパイネットワークを出し抜いた

How China Outwitted the CIA

2018年9月11日(火)17時15分
ザック・ドーフマン(カーネギー倫理・国際問題評議会・上級研究員)

自国民の監視にたけた中国の情報当局を甘く見てはならない Aly Song-REUTERS

<中国で処刑されたCIA協力者は30人――大失態の原因は米側通信システムの「穴」にあった>

それは輝かしいCIA(米中央情報局)の歴史に汚点を残す大失態だった。慎重に築き上げたはずの中国国内の秘密通信網が破られ、2010年後半からの約2年間で、アメリカへの情報提供者数十人が処刑されたのだ。

いかにして中国当局は国内に潜むアメリカのスパイたちを見つけ出したのか。8年近い歳月を経た今、5人の現役・元CIA当局者が(もちろん匿名を条件に)真相を語った。

彼らによれば、スパイの身元が割れた原因の1つは、CIAが彼らとの連絡に使っていた通信システムが破られたことだと考えられる。

それは中東で使っていたのと同じシステムだったが、どうやらCIAは中国のハッキング能力を見くびっていたらしい。元当局者の1人に言わせると、当時のCIA工作員たちは「このシステムは絶対に破られないと信じていた」。

もちろん、他の要因もあった。例えば、CIAの工作員だったジェリー・チュン・シン・リー(53)が中国側に寝返ったとされる問題。米司法省は今年5月に彼を起訴している。

だが中国側の摘発の速さと正確さからすると、やはり決定的だったのは通信システムへの侵入と考えざるを得ない。「中国側が臆測で動いていたとは思えない」とCIA当局者の1人は言う。「彼らが拘束した人物は全員が本当に工作員だった」

この大失態が明るみに出たのは昨年5月だった。まずはニューヨーク・タイムズ紙が、中国でCIAに協力していた情報提供者が次々と拘束され、処刑されたと報じた。同紙はその人数を「10人以上」としていたが、前出の元当局者によれば、実際には30人前後が拘束され、全員が処刑されたという。

ちなみにCIAもFBI(米連邦捜査局)もNSA(国家安全保障局)も、この件については一切のコメントを拒否している。本誌は在米中国大使館にもコメントを求めたが、やはり返答はなかった。

情報提供者の大量摘発・処刑という事態に驚いたCIAは、遅ればせながら救出作戦に乗り出し、それによって何人かの情報提供者が国外へ逃れることに成功した。また生き残った情報提供者には、逃走資金として大金を渡したという。

CIAはFBIと共に特別対策班を立ち上げ、なぜ情報提供者の身元が割れる事態が起きたのかの解明に乗り出した。調査を進めるなかで、原因となったとされる可能性が3つ浮上したという。

第1は、誰か(おそらくは情報提供者の1人)が中国側に寝返って、CIAのスパイ網に関する情報を提供した可能性。第2は、CIAのスパイ活動の一部に欠陥があり、中国当局に気付かれた可能性。そして最後は、秘密の通信システムがハッキングされた可能性だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中