最新記事

スパイ

中国サイバー攻撃がCIAスパイネットワークを出し抜いた

How China Outwitted the CIA

2018年9月11日(火)17時15分
ザック・ドーフマン(カーネギー倫理・国際問題評議会・上級研究員)

元当局者の1人によれば、対策班は調査の結果として「複数の出来事が重なり、組み合わさって」情報網が破壊されたと結論付けている。

「1人の裏切り」ではない

やがてアメリカの情報当局は二重スパイと思われる人物を突き止めた。北京で長く活動していたCIA工作員のリーだ。法廷に提出された文書によると、彼は少なくとも11年まで中国の情報当局と接触していたようだ。中国側から数十万ドルの報酬が支払われていたという。リーは香港からアメリカに到着したところで逮捕され、今年5月にアメリカで起訴された。

しかし、そんな一個人の裏切りだけでは2年間で数十人という大量摘発を説明できないと、元当局者らは言う。個々の情報提供者の身元は厳重に管理されており、リーがそれを知り得たとは思えない。そうであれば、やはり秘密の通信システムがハッキングされた可能性が高い。

CIA工作員が新しい情報提供者と連絡する場合には、相手が二重スパイである場合に備えて「使い捨て」の暫定的な通信システムを使うのが決まりだ。

元当局者2人によると、中国では当時、パソコンからインターネットを経由してつなぐ通信システムを用いていたという。

この「使い捨て」通信システムも暗号化されているが、十分に信頼できると判断された情報提供者との交信に使う正規の秘密通信システムとは分離されている。二重スパイによる侵入を防ぐためだ。

暫定システムと正規システムの暗号化には一部で共通の仕様があったが、両者は確実に遮断されていると想定されていた。たとえ暫定システムが中国側によって破られても、正規システム利用者の安全は守られるはずだった。いくら交信記録をたどってもCIAにはたどり着けないことになっている。

ところが、暫定システムには技術的な欠陥があった。実は正規システムとつながっていたのだ。調査の過程で、FBIとNSAは暫定システムのセキュリティー確認のため「侵入テスト」を実施した。すると、専門家なら正規システムに到達できることが判明した。元当局者の言葉を借りるなら、CIAは両システム間の「ファイアウォール作りに失敗」していた。

元当局者の1人によれば、侵入テストではこの通信システムとアメリカ政府諸機関とのリンクも特定できたという。もちろん中国側も特定できたに違いない。そして、それがCIAのものと判断できた。なにしろ、CIA本体のウェブサイトへのリンクもあったのだから。

この暫定システムは当初、中国とはセキュリティー環境も情報収集の目的も異なる中東の戦闘地域で使われていた。それを「中国のように高度な情報戦能力を持つ国」に持ち込んだのが間違いだった。

それは中国当局のハッキング攻撃に耐える得るほど頑丈には設計されていなかった。中東諸国と中国ではネット環境が全く異なる。中国には金盾(グレート・ファイアウォール)と呼ばれる厳しい検閲システムがあり、異様な交信パターンは即座に検知される。8年前でも通信の匿名性を保つことは非常に困難だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、慎重な対応必要 利下げ余地限定的=セントル

ビジネス

今年のドル安「懸念せず」、公正価値に整合=米クリー

ワールド

パキスタン、自爆事件にアフガン関与と非難 「タリバ

ビジネス

今年のドル安「懸念せず」、公正価値に整合=米クリー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中