韓国のデトロイト、現代グループの城下町「蔚山」を襲う失業と自殺
国内では最強、海外では衰退
造船部門で多数解雇されたことを受け、自動車部門の労働者は、次は自分たちの番ではないかと恐れている。
現代自動車はすでに一部の生産拠点を海外に移転しており、ロイターが閲覧した社内予測によれば、国内生産比率は、2004年の約80%から、今年は37%に下がると見込まれている。
国内での人件費高騰と強力な労働組合を考えれば、これは必要な変化だと企業幹部は指摘する。
だが労働者側は、現代グループが抱えている問題の多くは自業自得だと主張。主要市場・米国におけるスポーツタイプ多目的車(SUV)ブームを予測できなかったことや、電気自動車にシフトする業界の波に乗れなかったことなどを挙げた。
現代自動車はコメントしなかった。同社は今年に入り、今後5年で4万5000人をグループ全体で採用し、「ウェアラブル・ロボット」や人工知能などの新規事業に大きな投資を行うと約束している。
とはいえ、少数の強力な財閥への依存が、韓国経済の足を引っ張っていると一部の専門家は警鐘を鳴らしている。
財閥上位10グループが生み出す収益の総計は、2017年の韓国国民総生産(GDP)の66%に相当する。対照的に、フォーチュン誌の昨年調査によれば、米国では、上位500社による収益の総計が、同国GDPの65%に相当している状況だ。
「わが国の財閥は自己満足に陥っていた」と語るのは政府系金融機関である韓国産業銀行の李東傑(イ・ドンゴル)総裁だ。国内で享受しているほぼ独占的な環境によって、財閥グループはリスクを取ることを嫌がり、イノベーションが遅れたという。
海外主要市場での不振を背景に、韓国の輸出増加率は、昨年の15.8%から、今年5.3%に、そして来年には2.5%へとさらに減速することが見込まれている。
消えた楽園
これは、蔚山を筆頭とする同国の輸出拠点で、さらに苦痛が増すことを意味する。
文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領は5月、蔚山を含めたいくつかの都市を「産業危機地域」に指定。労働者・サプライヤーの支援と新規産業育成に向けて、今年1兆ウォン(約985億円)の予算を計上している。
文大統領は、財閥中心の経済政策は限界に達しており、持てる者と持たざる者の格差を拡大している、と指摘。
「革新的成長」を掲げた新政策の下、韓国政府は燃料電池や自動運転車、「スマート工場」、ドローン、さらには人工知能やIoT(モノのインターネット)、ビッグデータといった分野に向けた投資を推進している。
現代グループに勤務するベテラン社員たちは、こうした新政策の恩恵を感じていないと語る。
現代重工を解雇されたリーさんは、住宅内装の仕事に就くために塗装や成形の技術を学んでいるが、地元経済の不振は不動産セクターにも打撃を与えているため、再就職に苦戦している。
1982年に蔚山に来たHa M. H.さんは今月、36年間勤めた現代重工に別れを告げる。外国からの海上プラットフォーム受注が干上がっているからだ。
「古き良き時代にここで働いていた、スコットランドなどの国からきた外国人検査技師は、蔚山を楽園と呼んでいた」と彼は語った。「仲間は皆去っていった。私が最後の1人だった」
(翻訳:エァクレーレン)
[蔚山(韓国) 13日 ロイター]
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