中国、不正ワクチン事件の核心は「医療改革の失敗」
この会議で「一地方のワクチン製薬会社」の不祥事に関して討議し、関係者の処分を決定したのである。国家の重要な戦略を討議し決議するチャイナ・セブンの会議が、一地方の一民間企業の不祥事に関して招集されることは非常に稀な現象だ。
会議では「道徳と良識のデッドラインを越えた」関係者に厳罰を与えることを決定した。その対象は長春長生の関係者のみならず、吉林省副省長、長春市市長、吉林省政治協商会議副主席、市場監督管理局党組織書記、国家葯監局局長、食品葯品監督管理総局副局長など、行政方面も含めた40人以上に上る。
こうまでする背景には、実は中国の医療改革がもたらした災禍がある。
医療の市場化と中国の医療改革の失敗
1978年末に改革開放が始まるまでは、中国では「ゆり籠から墓場まで」、人民の民生問題は全て終身、中国政府が責任を持って保証していた。医療費も教育費(学費や教科書代)も無料だったのだが、改革開放が始まってからは、紆余曲折を経ながら自己負担となり、「医療、教育、福祉(高齢者問題)」の民営化と市場化が始まった。
そのような中、2003年12月16日、国有企業の「長春高新」もまた元国家衛生部という中央行政省庁直属の研究所から民営化されて「長春長生」となり、高俊芳という女性が34.68%の株を廉価で入手して総経理になる。彼女は夫を副総経理に、息子を副董事長にして家族経営を始めた。国民の命を預かるワクチン製造を、家族経営と官との癒着による利潤を求めるだけのサイクルに任せてしまったのだ。今回の不正ワクチン事件は、まさに「医療の市場化」がもたらした結果であると言っていいだろう。
中国では「養老、教育、医療」を、中国経済を支える3本の柱と位置付けて「トロイカ」(中国語では「三駕馬車」=「三頭立ての乗用馬車」)と呼ぶ。「養老」というのは「介護などを含む高齢者福祉」を表す中国語だ。
今年7月16日付けの「新華網」(中国政府の通信社「新華社」の電子版)は「養老、教育、医療は内需を牽引する"三駕馬車"」というタイトルの記事を掲載した。
中国の国家統計局によれば、2017年末における60歳以上の老年人口は2.41億人で総人口の17.3%を占め(65歳以上は1.58億人、11.4%)、2050年には4.87億人、全人口の34.9%に達するという。したがって「養老」は爆発的な経済効果をもたらすと、中国はソロバンをはじいている。
教育費に関しては海外留学する中国人留学生の総数は、2017年には60万人に達しているので、これもまた中国国内で市場化して競争させれば、経済発展を大きく押し上げてくれるだろうというのだ。