エネルギー分野でのロシア依存強く 深まる独メルケル首相のジレンマ
多くのアナリストは、「ノルド・ストリーム2」のビジネス上の根拠は薄弱だという。すでにバルト海海底を経由する別のパイプラインがロシア・ドイツ間を結んでいる。「ノルド・ストリーム2」によって輸送量は倍になるが、将来の需要は未知数である。
その一方で、ドイツ産業界は、エネルギーがこれまでより低コストで供給されるのであれば、何であれ歓迎している。
連立与党としてメルケル氏と提携する社会民主党は、ドイツ国内においてロシアに対する融和的なアプローチを求める代表的な勢力であり、やはり新パイプラインに好意的である。
この問題はドイツ中央政界に亀裂を生じさせている。与党各党は今年初めに行われた連立協議において新パイプラインを支持することで合意しているが、文書化はされていない。
「ノルド・ストリーム2」に批判的なシンクタンク欧州政策分析センターのアナリスト、マルガリータ・アセノバ氏によれば、新たなルートを建設しなくても、既存のウクライナ経由のパイプラインを使えば、ロシアは欧州向け天然ガス輸出を倍増させることができるという。
だが、欧州諸国、米国政府、さらにはメルケル氏自身の党内からも反対があるにもかかわらず、「ノルド・ストリーム2」事業は続いている。外交におけるドイツの野心が、同プロジェクトの露骨なビジネス上のロジックによって邪魔されている格好だ。
東方外交
一方、プロジェクトの事業主体であるノルド・ストリーム2AGを保有するロシア国営の巨大エネルギー企業ガスプロムからは、強力な支援がある。ノルド・ストリーム2AGのトップであるマティアス・ワーニヒ氏は、西独企業に関する報告を任務とする東独側のスパイだった過去があり、ベルリンでも最も有力なロビイストの1人と見られている。
「ノルド・ストリーム2」は、ロシア政府が支援するプロジェクトで構成されるパイプライン網の一部だ。このパイプライン網は、かつてロシア政府が支配していた国のなかで最大かつ最も扱いにくい国であるウクライナを迂回することを意図しているように見える。他のプロジェクトとしては、ウクライナを迂回して黒海を経由して南方に至る「テュルク・ストリーム」などがある。
ドイツの複数の国会議員によれば、ワーニヒ氏は同プロジェクトに関する彼らの懐疑的な問い合わせに応えて、彼らの懸念をプーチン露大統領に直接伝えることを約束したという。こうなると、同パイプラインがロシア政府の戦略的利益にかなうものだという感触はいっそう強まる。
だが、ガスプロムにとっては理にかなっている。宣戦布告のないままロシアと交戦状態にある国を経由するのはリスクが大きいし、旧ソ連時代に建設されたウクライナ国内のパイプラインは老朽化しており、信頼性にも欠ける。