最新記事

ドイツ

エネルギー分野でのロシア依存強く 深まる独メルケル首相のジレンマ

2018年8月14日(火)16時20分

多くのアナリストは、「ノルド・ストリーム2」のビジネス上の根拠は薄弱だという。すでにバルト海海底を経由する別のパイプラインがロシア・ドイツ間を結んでいる。「ノルド・ストリーム2」によって輸送量は倍になるが、将来の需要は未知数である。

その一方で、ドイツ産業界は、エネルギーがこれまでより低コストで供給されるのであれば、何であれ歓迎している。

連立与党としてメルケル氏と提携する社会民主党は、ドイツ国内においてロシアに対する融和的なアプローチを求める代表的な勢力であり、やはり新パイプラインに好意的である。

この問題はドイツ中央政界に亀裂を生じさせている。与党各党は今年初めに行われた連立協議において新パイプラインを支持することで合意しているが、文書化はされていない。

「ノルド・ストリーム2」に批判的なシンクタンク欧州政策分析センターのアナリスト、マルガリータ・アセノバ氏によれば、新たなルートを建設しなくても、既存のウクライナ経由のパイプラインを使えば、ロシアは欧州向け天然ガス輸出を倍増させることができるという。

だが、欧州諸国、米国政府、さらにはメルケル氏自身の党内からも反対があるにもかかわらず、「ノルド・ストリーム2」事業は続いている。外交におけるドイツの野心が、同プロジェクトの露骨なビジネス上のロジックによって邪魔されている格好だ。

東方外交

一方、プロジェクトの事業主体であるノルド・ストリーム2AGを保有するロシア国営の巨大エネルギー企業ガスプロムからは、強力な支援がある。ノルド・ストリーム2AGのトップであるマティアス・ワーニヒ氏は、西独企業に関する報告を任務とする東独側のスパイだった過去があり、ベルリンでも最も有力なロビイストの1人と見られている。

「ノルド・ストリーム2」は、ロシア政府が支援するプロジェクトで構成されるパイプライン網の一部だ。このパイプライン網は、かつてロシア政府が支配していた国のなかで最大かつ最も扱いにくい国であるウクライナを迂回することを意図しているように見える。他のプロジェクトとしては、ウクライナを迂回して黒海を経由して南方に至る「テュルク・ストリーム」などがある。

ドイツの複数の国会議員によれば、ワーニヒ氏は同プロジェクトに関する彼らの懐疑的な問い合わせに応えて、彼らの懸念をプーチン露大統領に直接伝えることを約束したという。こうなると、同パイプラインがロシア政府の戦略的利益にかなうものだという感触はいっそう強まる。

だが、ガスプロムにとっては理にかなっている。宣戦布告のないままロシアと交戦状態にある国を経由するのはリスクが大きいし、旧ソ連時代に建設されたウクライナ国内のパイプラインは老朽化しており、信頼性にも欠ける。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中