最新記事

ドイツ

エネルギー分野でのロシア依存強く 深まる独メルケル首相のジレンマ

2018年8月14日(火)16時20分

ドイツとEU諸国は、現行のガス輸送契約が2019年に失効する時点で、ウクライナ経由でのガス輸送の継続に向けて、ロシア・ウクライナ両国政府の合意を仲介しようと試みている。だが、これでは欧州消費者の負担によってウクライナを支える形になってしまうという批判もある。

ドイツの社会民主党内部では「ノルド・ストリーム2」に対する支持が根強い。SPD出身の最後の首相であるゲアハルト・シュレーダー氏は、退任後、ロシアの複数のエネルギー企業で役員の座に就き、プーチン氏を親しい友人として認めている。

シュレーダー氏の世代の多くにとって、ロシアとの協力は、彼らの英雄である1970年代のブラント首相による「東方外交」の流れを汲むものだ。ブラント首相は、懐疑的な米国政府に従わずにソ連陣営に手をさしのべた。今日ではこれが冷戦終結に向けた序曲になったと考えられている。

だが、SPD党内でも若い世代は、シュレーダー氏のロシア政府との親密さを批判することも多く、警戒心が強い。

ドイツとロシアのあいだには、数十年間にわたるエネルギー供給協力という絆がある。だが、ドイツは西側の同盟国にも何かを提示する必要がある、と当局者は言う。

ロシアとの協力は大いに進んでいる。先週、メルケル氏はロシアのラブロフ外相をベルリンに迎えた。ラブロフ外相には、ゲラシモフ参謀総長が同行していた。ロシアが2014年にウクライナからクリミア半島を奪って以来、EUでは入域禁止になっていた人物だ。

ロシア政府とのつながりを保つ政策は、ドイツ国内では人気がある。世論調査によれば、ロシアに対する好感度は、他のどの国と比べてもドイツが高くなっている。

だが当局者のあいだでは、ドイツが同盟国のあいだで面目を失うという点で、あまりにも高い代償を払いつつあるのではないかという疑問がますます高まっている。

(翻訳:エァクレーレン)

Thomas Escritt

[ベルリン 6日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 2029年 火星の旅
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月20日号(5月13日発売)は「2029年 火星の旅」特集。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

新ローマ教皇がゼレンスキー氏と電話、外国首脳と初対

ワールド

エジプト、スエズ運河通行料を割引へ フーシ派攻撃で

ビジネス

見通し実現していくか、内外情勢や市場動向を丁寧に点

ビジネス

日経平均3万8000円回復、米中の関税引き下げ好感
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中